第五話 ラッキースケベ?
ここから3話ほど、ラブコメパートです。
「かな恵さん、大丈夫?」
おれは、あわてて悲鳴の主の部屋に駆けこんだ。
「はい、大丈夫です。すいません、ちょっと転んじゃって……」
「そっか。大丈夫なら、よか……」
眼前に広がっている光景は全然大丈夫じゃなかった。
「大きな音を立てちゃってごめん……って、きゃあああああああ」
かな恵さんは事態に気がついて、新しい悲鳴をあげる。
おれの眼前には、転んだ拍子に、スカートがめくれてあられもない姿になっていた美少女がいた。
うん、かわいいピンク。
ここが天国かっ。
「みないでえええええええ」
おれの顔面には、分厚い本が直撃した……。きれいな星空が昼間の我が家でも見える。
※
「ごめんなさい。気が、動転しました」
おれの手当をしながら、かな恵さんは顔を真っ赤にしていた。
おでこの手当のため、顔がどうしても接近してしまう。あんなことがあったばかりで、とても気恥ずかしい。
「いや、おれもノックせずに、入っちゃてごめん」
申し訳なさそうな顔をしている義妹の姿を見ると、さきほどの絶景を思い出してしまいさらに赤みが増してしまう。
「まだ、痛みますか?」
「いや、もう大丈夫」
「よかった。ほんとうにごめんなさい」
「もう、いいって。お互い、さっきのことは忘れよう」
「はい」
せっかくの休日なのに、少し気分が沈んでしまった。こういう時は……
「おなか空かない? 何か作ろうか?」
「えっ」
「簡単なものなら作れるからさ。お昼にして気分換えよう」
「でも、それなら私が……」
「大丈夫。ちょっと料理したい気分だから座ってて」
ふたりぐらしのときは、たまに料理を作っていたので、簡単なものならある程度作れる。料理は将棋の息抜きとして結構好きだった。
「あ、ありがとうございます」
かな恵さんの顔が少し赤みをましていた。
※
さて、台所で食材を簡単に確認した。キャベツともやし、にんにく、唐辛子、たまごだけの冷蔵庫を確認する。
「昨日、そばの出前頼んだから、スーパー行き忘れたんだよな」
まあ、いいや。
とりあえず、お湯を沸かすために鍋に火を入れた。
※
「おまたせ。食材、なにもなくて簡単なものでごめんね」
おれが作ったのは、もやしと卵の中華スープと、きゃべつとツナの和風ペペロンチーノといういかにも簡単な料理だった。まさに、手抜きだ。
「わ~おいしそうです」
「いいよ、気をつかわなくて。所詮は男の手抜き料理だしさ」
「そんなことないですよ。あじつけだってとても美味しいです」
そんな風に会話がすすむ。まさか、おれみたいな将棋オタクがこんな美少女とテーブルを囲むことになるとは。神様ありがとう。ついでに、四段にさせてください。
二日間一緒にすごしたことで、おれたちふたりはかなり打ち解けた。最初の顔合わせの時に、感じたかな恵さんの硬さもかなり穏やかになっている。
「はぁー、こんな料理上手な彼氏欲しいな」
おっと、これは爆弾発言ですね。
おれがちょっと苦笑いしているとかな恵さんは気がついたようだ。
「ごめんなさい。へんな意味じゃないですよ」
「わかってるって」
「はぁ-恥ずかしい」
なに、このかわいい生物。
だが、妹だ。繰り返す、だが、妹だ。
「かな恵さんは、なにか趣味とかないの?」
「音楽を聴いたり、ゲームとか好きですね」
「そうなんだ。そういえば、引っ越し道具にもゲーム機紛れてたし」
「気がつきました? 今度、一緒に遊びましょうね」
「うん、ぜひとも」
なんだか、まだ少しぎこちないがいい雰囲気になりつつある。一時はどうなることやらと思っていたけど……。
「そういえば、桂太さんは、部活はなにかやっているんですか?」
「ああ、おれ? 将棋部に入ってるよ」
「えっ、将棋部?」
ちょっと、険しい顔になった。なんだろういつの間にか地雷でも踏んだか?
「地味だよね」
「そんなことないですよ。いま、流行してますし、頭よさそうだし」
「でも、女の子にはモテないんだよねー」
「えーそうなんですか?」
無事に地雷は回避できたようだ。
「あの桂太さん。お願いがあるんですけど……」
「なに?」
「午後、一緒に、デート、してくれませんか?」
これなんてギャルゲー?