香IF⑫
私は端の位を確保し、先輩は居飛車穴熊に組んでいく。すべて狙い通りだ。
私の狙いは玉頭戦。
お互いの王様の頭上で戦いを起こす。そうすれば、確実に乱戦になる。乱戦はいわば、泥沼だ。私の得意分野で戦いに引き込んでやる。そうすれば、土浦副部長だろうが誰であろうが、互角に戦える。
わざわざ金無双に囲うのは、縦からの攻撃に専念するためだ。
美濃囲いは横からの攻撃に強いが、縦からの攻撃に弱い。だから、自分から玉頭戦に誘導するのはかなり損。だって、自分の守りが縦じゃなくて横からの攻めに強いものを使っているから。
だから、最近は脱・美濃囲いの流れが進んでいる。
そもそも美濃囲いは江戸時代から振り飛車に寄り添って進化を続けてきた。
もう200年近い歴史がある。その長い歴史が、常識という圧力を作り出してしまい発想の転換がおこらなかった。
将棋ソフト・AIの発展が人間の常識を変えている。
変化を受け入れられない人間は、勝負の世界では食い物にされるだけだ。
今は、変化を恐れてはいけない。なぜなら、変化は成長の機会だから。
私はそのことを桂太くんに教えてもらった。
なら、私は自分の武器と一緒にこの激動の世界で変化し続けてやる。
そして、変化し続ける中で、私は彼を射止めてみせる。
この成長の先には彼がいる。彼が待っていてくれる。目の前にいるのは、大学将棋界のエースのひとり。それでも負ける気がしない。大好きな人が、私に示してくれた未来。ここで負けるわけがない。
今まで積み上げたものに、彼が見せてくれた未来と可能性がのっているんだ。どうして、勝てないのか聞きたいくらい。
私は桂馬捨ての強硬策を採用し、土浦副部長の穴熊に手をかけた……




