香IF⑩
「これでどうかな、桂太くん?」
「完璧じゃないですか、部長凄いですよ、これは米山システムみたいな感じです!!」
「そうかな?」
「そうですよ! こんなのなかなか対応できないですよ!!」
もうあなたの部長じゃないのに、彼は私を部長と呼んでくれた。それが嬉しい自分が、いる。
私たちは連休中に、すべてをかけて四間飛車研究をおこなった。
そして、完成したのが、このシステムだ!
可変型であらゆる状況に対応できるはずの現代四間飛車の決定版。
それが私と彼が研究して作り上げたシステム。
これが私の復活の狼煙になる秘密兵器。
「じゃあ、いきましょうか?」
「うん!」
私たちは決戦の場所に向かう。
今日は、アマ名人戦の予選の日だった……
私がエントリーするのは、その最激戦区のひとつ。都内予選。
桂太くんは、都内に在住していないので、エントリー資格はなく、別日のC県予選にエントリーしている。
でも、大学の部活仲間たちはほとんどすべての人が参加するし、アマタイトル経験のある強豪も数多く参加する本戦クラスに難しい予選。
ここが、私たちのシステムの試金石。
彼も応援に来てくれる。なら、負けるわけにはいかない。
私は覚悟を決めて、髪を束ねた。
※
私は午前中に2連勝し、予選の決勝に駒を進めた。幸運なことにここまではシステムを使わずに済んだ。でも、次は絶対にそうはいかない。
なぜなら、対戦相手が、私の部活のナンバー2だから……
名門・早応大学将棋部の双璧。
私が超えなくてはいけない怪物のひとり。
土浦副部長が私の目の前に立ち塞がる。
「上がってきたのか、米山!」
「まさか、予選決勝で、土浦副部長と当たるとは思いませんでしたよ」
「悪いがここで負けるわけにはいかないんだよ」
「それは、私もです」
私は後手になった。先輩は先手で居飛車。
ここまでは、ほとんど一直線。
「性懲りもなく、ノーマル四間飛車か!」
彼はこの先に待ち構える私の秘密兵器を知らない。
「勝手に言っていてください」
そして、この局面からが私たちのシステムの発動トリガー……
さあ、先輩、まずは犠牲になってください。
私たちの大いなる野望のために――




