表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

496/531

香IF⑨

 その言葉を言うと彼は眠りに落ちた。私も一緒に続く。


 美濃囲いにこだわらない四間飛車。たぶん、桂太くんが言うのは、振り飛車穴熊を使う四間飛車穴熊戦法でもなくて、もっと抜本的な振り飛車のことだろう。


 たしかに、プロの将棋では、そういう四間飛車も増えてきた。あえて、金無双を使ったり、振り飛車側なのに居飛車の囲いでもある左右反転型のミレニアム囲いを使ったり、右雁木や右矢倉など自由な囲いをプロは模索し始めている。


 でも、まだ定跡はできていない未知の局面ばかりだ。プロよりも才能がない私が、その未知の局面に対応できるのだろうか。ずっと不安で、私は美濃囲いにこだわり続けてきた。


 変化が怖い。前に進むのが怖い。

 もしかしたら、今まで積み上げてきたものがすべて壊れてしまうかもしれない。臆病な私は、新しい可能性に目を背けてきた。


 でも、そればかりじゃダメなんだよと彼は伝えてくれたのかもしれない。


 桂太くんの凄さは、変わり続けていることだ。

 彼の得意戦法である矢倉は、将棋ソフトの影響で絶滅寸前まで追い詰められた。


 でも、彼は変わり続けた。矢倉の5手目を変えたり、先手でも急戦矢倉を狙ったり、古い棋譜を調べて誰も知らない局面に誘導したりして……


 彼は変化し続けた。そして、今、彼は頂点にいる。


 私が停滞し続ていたのとはまるで逆だ。


 私は臆病になって、自分の殻にこもり続けていた。


 でも、彼は私に別の世界を見せてくれた。普段なら絶対に行かないであろう夢の国とオシャレなディナー。彼は私のために、変わってくれようとしている。


 それなのに、私が逃げ続けてどうするのよ?


 そんな私じゃ、彼のそばにいる資格なんてない……


 変わってやる。


 誰のためじゃない。彼のために……


 私をずっとずっと信じてくれているカワイイ後輩を失望させることなんてできない。


 目が覚めたら、私は新しい自分になってやる。


 そう決心して、私は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ