第四十九話 部長とおれ
「それでは、市内トーナメントも終わったので、今日から普通の部活になります。みんな気を引き締めて、頑張ってね」
「はーい」
「そして、桂太くんは、私との特別メニューよ」
昨日の電話での優しい部長はどこにいってしまったのだろうか。すでに、口調はセクハラ魔人にもどっている。
「特別メニュー?」
かな恵がそこに反応した。
「そう、大人なふたりの特別メニューよ」
部長は、セクハラ(以下略)。
「なっ、なっ、なっ」
「あれれー、かな恵ちゃん。顔真っ赤だよ。タコみたい~」
やめて、部長。そんなことを言ったら、かな恵の怒りのボルテージが……。
「兄さんのばかああああああ」
「どうして、おれがあああああああああ」
肩を強打されたおれだった。
※
「ひどいめにあったぜ」
最近、理不尽な攻撃ばかりにくらっているような気がする。思えば、入学式の日からこんなことばっか……。
「本当に、面白いわね。あなたたち兄妹は……」
「あんまり面白半分で、からかわないでください」
「えー、だって、少し嫉妬するじゃない。桂太くんが、美少女と同居生活しているなんて、ね」
「もう、からかいすぎですよ」
「さて、遊ぶのは、これくらいにして本番いこうか」
それも、なんとなく下ネタっぽいんですが、そうですか、はい。
「じゃあ、桂太くん。まず、最初にずばり言うわよ」
「はい」
ちょっと怖いが、これはおれがいいだしたことなのだ。だから、どんなにぼろくそに言われても仕方ない。
「大会の結果といつもの対局の癖を分析すると……、桂太くんの問題点は……」
まるで、死刑宣告を待つ囚人のような気持ちだ。
「時間配分よ」
「じかん、はいぶん?」
「そう、時間の使い方。今回の決勝戦はとくにそうだった。見たこともない形に誘導されたせいで、序盤で時間を使いすぎたわ。たしかに、地雷原をくぐりぬけるのに、考慮時間はたくさん必要。でも、桂太くんは使いすぎだわ」
「……」
それには自覚があった。時間をたくさん使ったことで、序盤は有利になった。でも、後半は短い時間の焦りで逆転される。
「さらに、私と桂太くんは、受け将棋。守りの将棋よ。攻め将棋よりも、思考時間は必然的に長くなる。だから、終盤には豊富に時間が必要でしょう?」
「おっしゃる通りです」
そこは、もう反論の余地なしだった。
「じゃあ、どうするか。それが問題」
「その通りです」
やっぱり本気になった部長はとてもかっこいい。次々と具体的なアドバイスをくれる姿はとても頼もしい。いつもこれだといいのに……。
「だから、わたしのおすすめは「詰将棋マラソン」と「棋譜ならべ」よ」




