葵IF 最終回
かな恵ちゃんとは別れて、私たちは部屋に戻る。
先輩の胸に抱かれるのが、とても心地よくて私はすべてを忘れるくらい泣きじゃくった。
かな恵ちゃんとの将棋で、勝ちが見えてからずっと泣くのを我慢していた。私が彼女に勝ってしまっていいのだろうか。ずっと自問自答しながら、自分の本能に従って、私は彼女の首元をかき切った。
それがよかったかどうかの善悪は私にはわからない。この先もずっとわからないだろう。でも、勝ち切るしかなかった。
将棋は、知性のゲームだと思われるが、実際は人間の原始的な本能を刺激する一種の官能性みたいなものがあると思う。
悲しいことに、私はそれに魅せられた。だからこそ、私は親友の願望を打ち砕けたのだ。
自己嫌悪の気持ちは、ある。そして、先輩を自分のものにできたことの充足感も矛盾するけど、持っていた。
最低だ、私。そう思う気持ちはずっとあった。かな恵ちゃんが桂太さんを好きだということに最初から気がついていたのに、自分の気持ちを止めることはできずに、私は彼を彼女から完全に奪い去ってしまった。
「甘えているだけじゃ、満足できなくなっちゃったんです。先輩が、優しすぎるから、もっともっと深く知りたくなっちゃんです。それが、かな恵ちゃんを傷つけることだって、わかっていたのに。やっぱり、私はさい――んっ」
自己嫌悪の感情を吐露する前に、私の言葉は先輩の唇によって塞がれた。
短い時間のキスのはずなのに、それが永遠のように思うほどの胸の高鳴りを感じる。自己嫌悪したばかりなのに、この時間が永遠に続いて欲しいと願っている自分がいた。
「言わせない」
「えっ?」
「葵ちゃんが最低なんて言わせない。キミは、俺にとって最高の女の子だから、さ」
「え?」
「俺は、葵ちゃんにずっと近くにいて欲しいんだよ。少しずるくて、でも、将棋の才能は抜群で、いつも一生懸命な、頑張り屋の後輩の女の子が、好きなんだ」
「私でいいんですか? 私がしつこかったから、選んでくれたんじゃないんですよね?」
「そんなわけがないだろ。俺は、葵ちゃんがイイ。違うな、葵ちゃんしかいないんだよ。あの時、砂浜で告白を断ってしまってから、ずっと悔やんでいた。あれは、あんな形にしちゃ駄目だったんだって、ずっとずっと悩んでた」
「先輩」
「だからちゃんと言うよ。葵ちゃん、俺とずっと一緒にいてください。もう、絶対にキミを離さない」
遠くで聞こえる滝の音がドンドン遠くなっていく。
この空間には、本当に私たちしかいなくて――
邪魔をするものはもうなにもなかった。
「はい」
私は自分の気持ちを伝えると、彼に対して、永遠を誓うキスをした……
これにて葵IF完結です。
次は、少しお休みをいただいて、香織IFを書きたいと思ってます。
ご愛読ありがとうございました。




