葵IF⑱
糸谷流右玉。
右玉の親戚で、本来なら相居飛車の将棋である右玉戦法を、対振り飛車にも使ってしまう奇襲戦法。
右玉の女王も得意としていて、バランスのいい陣形を作って、中飛車の攻撃をひたすらかわしながら、私の陣形にジワジワとダメージを蓄積させることが目的だ。
フットワーク軽く、じわじわとけん制攻撃をしながら、最後は力強い一撃で相手をノックダウンさせる超攻撃的な戦法。
よく、右玉戦法は「受けの将棋」などと言われるが、本当の達人が使うそれは、非常にアグレッシブだ。わずかなほころびでも見せたら、即・敗北。相手の陣形のバランスがいいので、こちらの攻撃はなかなか苦労するオマケつき。
私も、文人先輩の練習に付き合って何度か対局したことがある。たいていの場合は、右玉側に主導権を握られて、中飛車は我慢の時間が増えてしまう。
でも、我慢ならこっちのものだ。
私はずっと我慢して、我慢して、彼を射止めたのだから。
金銀を密集させて、囲いを高美濃囲いに進化させる。
ここまで強く出れば、かな恵ちゃんの攻撃も受け止められるはず。
しかし、かな恵ちゃんは攻撃をまだあきらめてはいなかった。
私が守りを固める様子を見るとすぐさま、7筋の攻めに転じる。
「これは……」
「玉頭戦で、ケリをつけよう、葵ちゃん……」
次回は明後日の23時ごろを予定しています。




