葵IF⑯
私たちは2人でお風呂に入った。昨日のいろんな疲れがすべて流れ出ていくようだった。
「昨日は、それでどうだった?」
かな恵ちゃんは単刀直入に聞いてきた。
「私たち、付き合うことになったの」
「そっか、おめでとう」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、昨日は夜遅くまで、イチャイチャしたんだ~」
「う~ん、イチャイチャというか……」
「え、もしかして、それ以上のこと?」
「そっちじゃなくて……」
「もしかして、兄さん、緊張しすぎて、元気にならなかった、とか?」
「違うよ、かな恵ちゃんのばーか」
「だって、付き合ったばかりの二人が一つ屋根の下だよ? そりゃあ、そっちも考えるというか」
「それどころじゃなかったんだよ。私も泣き出しちゃったりしたし」
「そりゃあ、あんなに頑張っていたんだから、愛が実ったら涙の一つや二つ出るでしょう?」
「それはそうだけどさ」
「ふたりとも、変なところで奥手なんだよな~」
「……」
私は恥ずかしくなって、お湯に潜りかける。
「心の底から祝福したいんだけど、やっぱりダメだね。どうしても、葵ちゃんに嫉妬しちゃう」
「かな恵ちゃん……」
「みんなには内緒にしていたけどね、私、兄さんに告白したんだ。全国大会の後すぐに」
「……」
なんとなくは察していたことだ。そして、結果もわかっている。
「でも、ダメだった。その瞬間、私たちは本当の意味で家族になった、ううん、なってしまった。もうすでに、兄さんの心の中には葵ちゃんがいたんだね。やっぱり悔しいよ」
黒い髪を濡らしながら、かな恵ちゃんは私の肩にすがりついた。
「ごめんね、かな恵ちゃん」
「謝ったら、ダメだよ。そのほうが悲しくなる」
「ごめん」
「だ~か~ら~」
そう言って、私たちは二人で泣きながら笑った。
「葵ちゃん、将棋しよ」
「えっ?」
「私に勝ったら、兄さんのこと、本当にあきらめてあげるから、ねっ?」
ここで逃げるわけにはいかない。
私は、最強のライバルの提案にうなづいた。
次回は明日の23時ごろです。




