葵IF⑭
私は強引に先輩の唇を奪った。
「これ、ファーストキス、ですからね」
そう言って、私は彼の布団にもぐりこんだ。
このキスの意味を伝えれば、桂太先輩はもう断れないはず。
先輩の体に抱き着くと、心臓は高鳴り、頭は大混乱する。お互いの体温とにおいで布団の中は満たされて、頭がくらくらする。
「葵ちゃん――」
「どうしました、先輩?」
「近いよね」
「そうですね」
私は先輩の体にさらに強く抱き着く。
「葵ちゃんは、俺なんかでいいの?」
先輩は本当にバカだ。
「違いますよ、先輩じゃないとだめなんです」
「こんなに情けないのに?」
「情けないのは、先輩が優しいからです。優しいから、誰も傷つけないようにしようとするから、動けなくなっちゃっただけなんですよ。私は後輩として、先輩に懐いている立場だけじゃ満足できなくなっちゃったんです。だから、私は、あなたがいい」
「そっか」
「そう、ですよ」
「だから、教えてください。私に将棋を教えてくれたように――先輩は、私をどう思っていますか? ただの後輩ですか? それとも――」
私は、自分から裁判の場に立った。
「俺は――葵ちゃんが好きだ。今度は迷わない。情けない男だけど、付き合ってください」
「やっと聞けた、先輩の本心……好きな人から、好きだと言ってもらえることって、こんなに胸が満たされるもの、なんですね。いままでずっと求め続けてきたから、知らなかったんです」
「ごめん、葵ちゃん。葵ちゃんには、ずっと負担ばかりかけちゃって」
「彼女が、こんなに幸せな時に、彼氏が謝らないでください」
「葵ちゃん……」
「末永く幸せにしてくださいね、桂太さん」
そして、私は目を閉じた。
今度は私の唇が奪われた。
次回は明日の23時ごろです。




