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第四十八話 師弟

「じゃあ、おやすみ」

「はい、ありがとうございました」

 おれは、かな恵さんとの研究会をそう言って後にした。妹とはいえ、美少女の部屋でふたりっきりで将棋。かなり緊張した。


 今回の研究では、指定局面を作ってその後の変化をふたりでしらみつぶしに考えていく。プロのような実力はないので、不完全かもしれないが、自分たちの頭で考えることで、生きた知識となっていく。アマチュアだからこそ、有効な局面だってその中から生まれてくるのだ。


 自室の時計をみる。

 23時だ。寝るには少しだけ早い。


 夜に迷惑だとは思ったが、おれは電話を手にして彼女に電話をする。さきほど、別れたばかりの彼女に……。


「は、はい、どうしたの、桂太くん?」

 彼女は、いつものような声じゃなかった。もしかして、寝ていたのかもしれない。

「ごめんなさい。部長。夜、遅くに……。寝てましたか?」

「ううん、詰将棋解いていたところ」

「あっ、勉強の邪魔しちゃいましたね」

「大丈夫よ、なにかあった?」


 部長は、おれとふたりの時は異常に優しい。いつものセクハラ魔人なんてウソのように……。


「言いたいことはわかってますよね」

「もちろん、他ならぬ一番弟子の桂太くんのことだもん」

「さっすが、部長」

「そこは、元カノとでも言って欲しいわね」

「まったく、いつもそう言って、恥ずかしいからって、ごまかして」

「それが、わたしとあなたの関係でしょう?」


「……」


「もっと、強くなりたいんでしょ?」

 やっぱり、部長にはかなわない。常におれの一歩も二歩も先にいて、なんでもお見通しの頼れる先輩。

 そこに憧れるし、そこが好きだし、そこが憎たらしい。

 やっぱり、どうしたって嫉妬はある。彼女は、間違いなく天才だ。将棋だけではなく、いくつもの才能をもつ才女。そして、ひとをひきつけるカリスマ性。いったい、天はいったい彼女にいくつの才を与えるのだろうか。本当に不平等だ。


「は、い」


「だよね。かな恵ちゃんに負けたままで、終わりたくない?」

「それも、あります。でも……」

「でも?」

「最終的には、あなたに、勝ちたいと思ってます。それが、おれの恩返しなのかなって」

 彼女は、その決意を聞くとクスリと笑った。


「まったく、生意気な弟子ね。わたしが、そんなにお人よしに見える?」

「見えます」

「本当にはっきり言うわね。だからこそ、好きなんだけど、さ」

「自分は、部長を()()してます」

()()ね。まあ、いいわ。じゃあ、明日からは特訓よ。楽しみにしてなさい」

「ありがとうございます」

 

 ※


「尊敬なんて、欲しくないのに」

 わたしは、そう言ってベッドの枕に顔を埋めた……

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