葵IF⑫
今の状況を説明しよう。
「2人の夜、なう」
以上です。
そんな馬鹿なことを考えて、私たちは眠れない夜を過ごしていた。
ふたりの布団は距離が置かれているが、相手の息遣いや寝がえりの音が、お互いの理性を刺激する。
もはや、なにもなくても事案じゃない。私は、なんとか理性を保とうと頑張っていた。
たぶん、桂太先輩も同じはず。
この時間が早く終わって欲しいと思っている私と、この時間が長く続けばいいと思っている私。矛盾した二人の私。
悪い方の私が、こうささやいてくる。
(ねぇ、我慢しなくていいんじゃない? 先輩の布団に潜りこんじゃえばいいじゃない。あとは流れで、どうにかなっちゃうわよ)
もう一人の私が言うことは正解だ。私たちの関係ならば、先輩の布団に潜りこんでしまえば、"既成事実"なんて簡単に作れてしまう。
それなら、私の希望は達成できる。それでも、いいじゃない。
そんなよこしまな考えに、理性は決壊寸前だった。
将棋と同じだ。
躊躇したら、負ける。
なら、攻めるしかない。
私は意を決して、彼に話しかける。
「ねぇ、桂太先輩? 起きてますよね。私も眠れないんです。少しだけ、お話しませんか……」
彼は、「うん」とだけ短く言った。
私たちの夜は、まだまだ続く。
次回は明日の月曜日23時ごろ予定です。




