葵IF⑪
「葵ちゃん……」
「先輩……」
私たちは絶望的な状況に途方に暮れていた。
「お待たせしました。夕食でございます」
そんな中、仲居さんたちが夕食を運んできてくれた。
「あっ、ありがとうございます」
私は、ぎこちなくお礼を言った。
「ちなみに、なんですが、俺たちってどういう関係で予約されていますかね」
先輩はおそるおそる聞く。まぁ、そこはお爺ちゃんだ。抜かりはないはず。
「ああ、源様のお孫様と、ご婚約者様とお聞きしております。お若いのに、すごいなと皆が話しております」
「なっ――」
絶句する先輩と、顔を赤らめた私はうつむいてしまう。
仲居さんは、その様子が微笑ましいのか、うなづいて消えてしまった。まさに、あとは若い二人で……みないな――表情を浮かべていた。
「美味しいですね」
「ああ」
豪華な懐石料理が並ぶ。
先付けの胡麻豆腐からはじまって、お寿司、御造り、和牛ステーキ、お洒落な野菜がどんどん並んでいく。
「すごくおいしい」
いつの間にか、私たちは口は軽くなった。
「やっぱり、美味しいね、さすがは、源家御用達の旅館」
「あんまり、からかわないでくださいよ」
「なんだか、修学旅行みたいですね」
「男女が同じ部屋にいるのに?」
「それは大問題ですが……」
そう言って、私たちはまた、笑った。
「葵ちゃんはここで寝てよ。俺は、廊下で寝るからさ」
「えっ」
「だって、さすがに同じ部屋で寝るわけにはいかないだろ。布団もあるから、そこまで体痛くならないはずだしさ」
「嫌です」
「えっ、葵ちゃん、なにを……」
「桂太先輩、今日は一緒に寝ませんか?」
次回は明日の23時ごろを予定しております。




