葵IF⑦
たまに、センパイ以外の男の人に声をかけれられる。
「ねぇ、キミ可愛いね。高校生?遊びに行かない?」
私はそういう人たちのことを冷たい視線で見つめて、無視することにしている。
あまりにも強引なナンパは、おじいちゃんが私に隠れてつけているボディーガードが裏で排除しているみたい。
私は、ずっとロジックの世界が好きだった。
好きなゲームは落ちもの系パズル。趣味は数学の問題集を解くことと、新しくできた将棋を指すこと。それらの趣味の中に、感情というものは一切、入り込む余地がない。私はそう言う世界がすきだったはずなのに、今では感情に支配されている。
この前、夏祭りで桂太先輩を待っている間、またナンパされた。
「ねぇ、キミかわいいね。ひとり?」
「……」
私は無視をする。
「もしかして、彼氏と待ち合わせ中かな~ざーんねーん、じゃあね、お姫様」
悪質なナンパじゃなくて安心したけど、それと同時に胸がかき乱された。
(私は、センパイにとって、一体、何なんだろうね)
むなしさが私を支配する。でも、それは刹那的なむなしさで、彼と出会ってしまえば忘れてしまうくらいの大きさで――
私が彼のことを大好きだということを再認識するだけの、ただのきっかけだった。
※
「葵ちゃん、かき氷とけちゃうよ」
「ああ、ごめんなさい。考え事してました」
「そっか」
「はい、後手のゴキゲン中飛車なんですけど、先手の居飛車の超速に悩んでいて、金美濃や美濃囲いだと結構、限界感じているんですよね。なら、ここはいっそのこと、持久戦で対抗する穴熊に切り替えていくべきかなって。桂太先輩、居飛車穴熊得意じゃないですか。そこらへん、あとで教えてくださいよ」
「いいけど、穴熊は美濃囲い系列とは違って、最初は相手に攻められて、サンドバッグになったり、手づまりになりやすいから慣れるまで大変だよ」
「任せてください。あとで、研究会、お願いします」
私は、さりげなく次の予定をねじこむことに成功した。
でも、本当は、違うことが聞きたかった。
(桂太先輩は、私のこと、好きですか?)
あと半歩勇気出せば言えることなのに、その半歩がどうしても遠かった。
次回は明日月曜日の23時ごろを予定しております。




