葵IF⑤
花火大会の後、かな恵ちゃんから電話がかかってきた。
「ねぇ、葵ちゃん? 花火大会はどうだった?」
かな恵ちゃんは、私に心配そうに聞いてきた。
「とっても楽しかったよ」
「そっか、よかった」
私たちはぎこちなく笑った。
「ねぇ、葵ちゃんは、兄さんのどこが好きなの?」
「そうだな~ 一番は優しいところと、安心感かな?」
「安心感?」
「そう、桂太先輩と話していると、とっても安心する。そんな保証があるわけがないのに、彼とずっとずっと一緒にいられる気がする。そこが、好きなんだ」
「そっか」
彼女は小さく「勝てないな」とつぶやいた。私の中で少しだけ罪悪感が生まれる。
「私にとっての兄さんは、私に何かをくれる人だったけど、葵ちゃんはお互いに補い合っているように見えるよ」
「そう?」
「うん、そこがやっぱりすごいな」
「あり、がとう」
泣きそうになるのを必死にこらえた。
彼女の前で泣いてはいけない。泣いてしまったら、彼女の決心に泥を塗ることになる。
私は桂太先輩との何気ない思い出を必死に思いだした。
そして、その何気ない日常ですら、自分にとっては宝物になっていることに気がついた。
電話を切り、私は静かに泣いた。
悲しくて、そして、嬉しい複雑な気持ちが混じった涙だった。
次回は明日10日の23時ごろ更新予定です。
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