葵IF➃
「よろしく。おれは、佐藤桂太。二年生。きみの名前は?」
「あっ、わたしは、源葵です。一年生、あっ当たり前か。えーとっ」
「じゃあ、源さん。簡単に将棋で遊んでみようか? 駒の動かし方とかわかる? 段位とかもってる?」
「おじいちゃんに教えてもらって、簡単に駒の動きくらいは……。でも、時々間違えるし……」
「10枚落ちで遊ぼうか。間違えてもいいから、リラックスして遊ぼう」
「は、はい」
※
花火大会の後、私は桂太先輩との最初の日のことを思いだしていた。
彼のことをいつ、本当に好きになったんだろう。
最初から、好きだったと思う。少なくとも優しく将棋を教えてくれたから好感度は最初から高かったのは間違いない。
自分の練習もあって忙しいのに、私の練習に付き合ってくれたことも……
一緒にたくさんの詰将棋を解いた。
彼といっしょにいることが、私の日常になった。
そして、いつの日にか気がついてしまった。
私は、彼のことが――桂太先輩のことが大好きなのだと……
※
「私は、そのなにげないところに惹かれたんです。自然と誰にでも優しくできてしまうところが好きなんです。その何気なさが、私にとっては一番大事なんです。だから、私の大好きなところを、自分で否定しないでください」
「私は先輩が好きです。将棋で、見たこともない世界に連れていってくれる先輩も好きです。でも、一緒に普通のことをして、普通に楽しめるところが一番好きなんです。だから、ずっと先輩といっしょにいたいんです。私と、付き合ってください」
※
この気持ちは、まだ変わっていない。
花火大会中は、私たちの手は繋がったままだった。
(大好きです)
私は、繋がれた手のもう片方にそう念じた。
彼の手は、力をこめて握り返してくれる。
伝わったのかな。伝わったらいいな。
伝わって欲しいな。
私も彼の大きな手を握り返す。
世界からは音が消えてしまったように感じる。たくさんの人がこの会場に入るはずなのに、雑音は私の心臓の音でかき消される。
最後の大花が空に舞った。
次回は9日の23時を予定しております。




