葵IF③
「葵ちゃん……」
「わかっています。桂太先輩が、あの告白の時、どんなに迷っていたのかも。誠実になろうとすればするほど、どんどんわからなくなってきて、それで時間が必要になっちゃって――だから、あんな中途半端なことになっちゃったのも――それに負い目を感じて、ちょっと微妙な雰囲気になっちゃうのも、私、わかってますから」
私は、涙をこらえるように、りんご飴をかじった。
青春の味がする。ほろ苦くて、酸味たっぷりの悔しい味。
「だから、あの告白は、一回なかったことにしましょうよ。焦った私が悪かったんです。もしかしたら、かな恵ちゃんの気持ちも、私のせいで踏みにじらなくちゃいけなくなったと思うし。それが、とても悲しいんです。だから、この飴を食べたら、私はすべてを忘れます。先輩もそうしてください」
先輩を諦めないという気持ちと罪悪感。ふたつの相反する気持ちが私の中でせめぎ合っていた。
「いやだよ、そんなの」
「えっ?」
先輩は、私の言葉を否定する。
「すごく嬉しかったんだよ。あの時、葵ちゃんが俺を好きだと言ってくれて。たしかに、まだ心の整理がうまくできてないけど……それでも、あの時の言葉を無かったことになんかできない。情けない先輩でごめん。情けない男でごめん。でも、それだけはできないよ」
「そんなこと、ないですよ。桂太先輩が、部活のみんなのことをどれだけ大事にしているかわかってます。だからこそ、答えが出せないこともわかってます。ずるいんですよ、私。それがわかっていて、先輩に甘えているんです」
「葵ちゃん……」
「でも、ありがとうございます。もう少しだけ、先輩の"答え"、待ちますね」
「お願いします」
遠くから大きな音が聞こえる。火薬は空を舞い、夜空には大きな花が開く。
「ひとが増えてきたね」
「はい」
「離れないでね」
「大丈夫ですよ、先輩がちゃんと私のことを考えていてくれれば」
そう言って、私は先輩のシャツの袖を握った。
「がんばるよ」
先輩はそう言うと、シャツを握っていた私の手を包んだ。
私は目を伏せて、この瞬間が永遠に続けばいいのにと思う。
(ずるいですよ、桂太先輩。もうダメだと思っていたのに……。それを裏切られたら、もっと好きになっちゃうじゃないですか……)
花火の音が少しだけ小さくなった。
次回は明日の23時ごろを予定しております。
かな恵編の花火と今回の花火、それぞれ少しだけ意味が違っています。
そこらへんが伝わっているといいのですが(;'∀')




