葵IF②
「あっ、桂太先輩? お待たせしました~」
私は駅前で待つ桂太先輩に駆け寄った。今日の花火大会当日。私は淡いピンクの浴衣を着飾っている。
「いや、今来たことろだよ、葵ちゃん」
「よかった。私から誘ったのに、待たせてしまったら悪いですからね。どうですか?」
「えっ?」
「だ~か~ら~、浴衣ですよ。デートなんだから、最初に女の子のおしゃれを褒めないとモテないです」
「あ~、あ~、すごく似合ってるよ。かわいい」
「時間切れです。まったく、デートの定跡全然知らないから、わたし以外の女の子とデートに行けないんですよ~」
「デートくらい……」
「かな恵ちゃんとわたし以外に誰かと遊びにいったんですか~?」
「え~っと、米山先輩……」
「米山先輩とは、将棋道場と指導対局でしょ~ そんなのノーカンですよ~」
「うっ」
「まったく、先輩みたいな、趣味は『将棋です』みたいな男の子が、わたしみたいなかわいい子と花火デートなんて、幸せすぎますよ。私にとっては慈善活動みたいなもんですよ~」
「そこまで言うのか――葵ちゃん…… でも、ありがとうね」
「えっ」
「いや、誘ってもらえてうれしかったからさ。あんなに情けない返事しちゃったのに」
「まったく、いつもは鈍感なのに、どうしてこんなときだけするどいのよ、ごにょごにょ」
「えっ、なんだって?」
「先輩のばーかって言ったんですよ」
私は誤魔化した。
「ごめん、おわびになにか奢るから許して」
「私が何に怒っているのかわからないのに、謝らないでくださいよ」
「でも、葵ちゃんを怒らせちゃったみたいだし」
「そんなに怒ってないですよ。むしろ――嬉しい?」
「でもさ、ここは男が甲斐性を見せないといけない気がする」
「もしかして、かな恵ちゃんの入れ知恵ですか」
「……」
「わかりやすっ!」
桂太先輩の顔から冷や汗が止まらなくなっていた。
「まあ、先輩がそう言ってくれるなら、りんご飴食べたいです」
「はい、よろこんでー」
「ロマンもへったくれもない!?」
※
「焦った。まさか屋台の人が葵ちゃんの関係者だったとは」
「ここらへんのお祭りは、家がしきってましたからね。しのぎ、げふんげふん――頼りにたされているんですよ」
「いま、聞いちゃいけない言葉を聞いた気がする」
「気のせいですよ~」
「忘れよう、そうしよう」
「忘れるで、思い出しましたけど、りんご飴って都合のいいことを忘れることができるんですよ」
「えっ、なにそのオカルト?」
「私にとって、忘れたいのは、告白の後のセリフです」
「……」
「だから、これを食べ終わったら、ふたりでまたはじめから始めませんか? 」
次回は明日の23時頃更新予定です!




