表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

467/531

葵IF①

こちらは桂太とかな恵が結ばれなかったパラレルワールドになります。部長の告白が、葵よりも遅くなったことで、世界線が分岐しています。


葵の告白が保留のまま全国大会が終わっています。

 少し前のことを思い出す。


「私が先輩を好きだと言ったらどうしますか?」

 勇気を出した初めての告白。


 部長もかな恵ちゃんも"まだ"答えを出せていなかったときに、私は勝負をかけた。

 それは合宿最後の夜のことだ。

「来てくれたんですね、桂太先輩?」

 私は先輩を呼び出した。


「ごめんなさい。桂太先輩。本当は大会の後まで、我慢するつもりでした。でも、無理でした。我慢できなくなっちゃいました。だって、普通ですよね。好きなひとが、自分のことをどう思っているのか知りたい。この気持ちに嘘をつきたくない。だから、教えてください。あの時の告白の答えを……」

「葵ちゃん」

「私は先輩が好きです。将棋で、見たこともない世界に連れていってくれる先輩も好きです。でも、一緒に普通のことをして、普通に楽しめるところが一番好きなんです。だから、ずっと先輩といっしょにいたいんです。私と、付き合ってください」

 桂太先輩は人生初めての告白に混乱していた。

「ごめん、葵ちゃん。もう少しだけ考えさせてください。全国大会が終わるまで対局に集中したいから」

「――わかりました」

 あの時から、まだ答えは聞けていない。

 だから、私は攻める。恥ずかしいとかは言ってられない。

 もう誰にも彼を渡すつもりはない。

 私は部室の部屋の扉を開いた。

 

 ※


 全国大会が終わり、将棋部は新しい体制が発足した。

「お疲れ様です。桂太先輩、いや()()()って言った方がいいですか~?」

「あんまり茶化さないでよ、葵ちゃん」

「ごめんなさい。でも、からかいたくて」

「最近、小悪魔化してませんか、葵ちゃん……」

「それは先輩の前だけですよ」

「おいっ」


「大会も終わっちゃいましたね」

「うん」

「米山先輩も受験勉強に忙しいみたいですし」

「そうだね」

「かな恵ちゃんも本当の意味で、『家族になれた』って喜んでいましたよ」

「そっか」

 先輩とかな恵ちゃんは本当の意味で家族になることを選択した。それがふたりにとって本当に正解なのかは誰にもわからない。でも、尊重されなければいけない選択だ。


 我慢できなくなって、私は、部長の席に座る先輩の背中に体を押し付けた。


「えっ、あ、葵ちゃん? ちょっと、いきなりどうしたの。当たってる、当たってるから」

 桂太先輩は、あわてている。まるで、混乱魔法にかかったみたいに。ちょっとかわいかった。


「えー、なにがですかー?」

 今日は攻めると私は決めていた。だから、恥ずかしいけど逃げない。

「だから、やわらかいものがああ。それにいい匂いもするし……」

「えー部長、にぶいな~ ラブコメでよくあるでしょ~ 『あ・て・て・ん・の・よ』ですよ~」

「葵ちゃんが痴女に!?」

「ひどいな~。私だってがんばってアプローチしてるんですよ~」

「葵ちゃん?」

「それとも、まだ気にしているんですか? 私を振っちゃったこと?」

「っ……」

「ビンゴ。あんな酷い振られ方ないですよ。『全国大会が終わるまでは、将棋に集中したいから』なんて。付き合えないなら付き合えないでしっかり振って欲しかったです。人生はじめての告白なのに、トラウマになっちゃいます」

「それは、何度も謝ったでしょ。それに振ってないし」

「じゃあ――"もう大会終わったから、私に集中してもいいんですよ"」

 桂太先輩は黙ってしまった。


「私はひどく傷ついたので、センパイに埋め合わせをお願いします」

「わかった、わかったから。できるだけ早く離れて。いろんな校則にひっかかる。文人やかな恵に見られたら〇される」

「いま、なんでもって」

「言ってない」

「も~、そこはしっかりしてる~」

 そう言って、私は桂太先輩から手を離した。


「今週の土曜日、私と花火大会に行ってください」

 夕日を背にセンパイを誘う。こうすれば、顔が真っ赤なことはばれないと思ったから。

次回は明日の21時に更新予定です。

もし面白いと感じたら評価や感想などをいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ