番外編① 桂太と葵の雨宿り
以前、twitterで投稿した番外編です。
「雨、降って来ちゃいましたね」
全国大会が終わり、新しい部活の体制がはじまった9月。
葵ちゃんは、外を見てぽつりとつぶたいた。
雨、葵ちゃん……
うっ、トラウマが……
「そういえば、桂太先輩? 梅雨の時期に私と、雨宿りしたことおぼえていますか? ほら、部室の備品を買いに行ったら、帰りで……。屋根がある公園のベンチの思い出……」
いやああああああああ。
内心で絶叫しがなら、あの時の出来事を思いだしていた。
※
「雨、降って来ちゃいましたね」
雨の音が激しくなる。屋根がある公園のベンチで、俺たちは、呆然と雨を見ていた。
「うん、梅雨だからね。でも、文人が傘をもってきてくれるから、雨宿りしてればすぐだよ」
「でも、暇ですよね。よかったら、桂太先輩? 目隠し将棋でもしませんか?」
「うん、いいよ。じゃあ、俺が先手で」
「はい」
「▲7六歩」
「△3四歩」
「▲2六歩からの」
「△5四歩」
「だよね~▲2五歩」
「△5二飛で、中飛車です」
「それなら▲5八金右でどう?」
「超急戦ですか? なら△5五歩」
超急戦。対中飛車の定跡で一番激しい将棋。
盤もないので、脳内で将棋盤を動かす目隠し将棋で、この激しい戦いは、結構厳しい。
心臓がバクバク動いている。アドレナリンが俺の頭の中を駆け巡……
「あの、センパイ?」
「なに、葵ちゃん?」
「その、言いにくいんですが、あんまり見られると、結構恥ずかしいんですよ?」
「えっ?」
「だから、その――目線です」
葵ちゃんは、そこを指さす。突然降ってきた雨のせいで、夏服の薄いシャツは、透けてしまっていて……
ピンクの可愛い下着が――
「ごごごごご、ごめん。完全に無意識だった」
「ふ~ん、そうなんですか~。無意識なんだ~」
「本当にごめん。だから、問題にしないで。許してくださいいいいいいい」
「大丈夫ですよ。問題にしませんから。だって、桂太先輩になら、嫌、じゃ、ないし」
「えっ?」
難聴鈍感主人公みたいなことを言ってしまったが、決して聞こえなかったわけじゃない。驚いて聞き返してしまっただけで……
「こんな恥ずかしいの、桂太先輩にしか見せませんよ」
「……」
「もう、赤くならないでくださいよ。言ってる私まで恥ずかしくなるじゃないですか」
「いやだってさ」
「もう、早く次の一手指してくださいよ」
そういいながらも、俺たちの手は、わずかに触れてしまう。「あっ」と、彼女は消えそうな声で驚く。やばい、かわいい。
雨の公園で、かわいい後輩とふたりきり。
理性が、吹き飛べば、間違いなく案件になってしまうこの状況。
冷静に将棋のことだけを考える。
次の一手のことだけを――「▲6七金」
「あっ、それ頓死ですよ、せ・ん・ぱ・い?」
「えっ」
俺は大優勢だった将棋の結果をひっくり返された。
隣で、葵ちゃんは、「計画通り」とほくそ笑んでいた……
完全にはめられた。最恐の盤外戦術。
裏切ったな、思春期の男子の心を裏切ったんだ。部長と同じように裏切ったんだああああああ。
その後のことはよくおぼえていない……
※
「みたいなことがあったんですよね~ ねっ、せ・ん・ぱ・い?」
「ああ、間違いない」
もはや、ここまで。この事実をかな恵に知られる前に、潔く切腹して、文人に介錯してもらわなくては。
「月花を心のままに見つくしぬ なにか浮き世に思ひ残さむ」
俺は思いつくままに、辞世の句を詠んだ。もう、思い残すことは……
「へ~、葵ちゃんはそんな句を残すほど、かわいかったんですね~ ねぇ? 桂太さん?」
俺の後ろに突然、断頭台が出現した。
ばかな、早すぎる……
意識が消えゆく寸前、葵ちゃんは、俺の耳元でささやいた。
「あの時、どうして手を出してくれなかったんですか? 先輩のばーかぁ」
明日以降、番外編やIFルートを投稿していく予定です。
(予定)
①葵IFルート
②香IFルート
③文人アフター(本編完結後)
➃かな恵アフター(グランドフィナーレ)
この4編は確実にやります。
ほかに構想としては、高柳先生や王龍など大人たちのエピソードやかな恵中学編とかもありますが実際にやるかどうか未定です。
評価や感想などいただけると、本当に嬉しいです。
それでは、皆さま引き続きお楽しみください。




