第四十六話 うちあげ
「それでは、新入部員と、葵ちゃんとかな恵ちゃんの市内トーナメント優勝、桂太くんの準優勝、文人くんのベスト4を祝って……」
おれたちは、コーラのはいったグラスを持ち上げた。
「乾杯っ!」
部長は元気よくそう言った。
「乾杯っ!」「乾杯っ!」「乾杯っ!」「乾杯っ!」
勢いよくグラスを重ねた。
今日は月曜日。
部活が終わった後、おれたちはファミレスに来ていた。ドリンクバーのコーラでお祝いだ。
テーブルには、フライドポテト・サラダ・ピザ・辛いチキン・ミラノ風なドリアなどなどが並んでいる。これでひとり当たり500円の会費で成立するのだから、すごいファミレスだ。
「いやー、みんなお疲れ様でした。葵ちゃんとかな恵ちゃんの賞品は、ゴールデンウイークにおこなわれる予定の将棋部豪華合宿の費用にさせていただきます。桂太くんと文人くんの獲得した図書カードは、部内共有の棋書を買わせていただきます」
わー、ぱちぱち。
「欲しい本があったら教えてね。ちなみに『四間飛車名局コレクション』は確定だから」
おい、部長。職権乱用が激しいですよ。大会出ていないのに……。
「なら、『角換わり名局コレクション』も……」
「『奇襲大辞典』が……」
アレレーオカシイゾー。ふたりとも、趣味が出ているな~
※
「それにしても、源さん。はじめて、1週間で優勝なんてすごいよね」
「そんなことないですよ。本当に、桂太先輩のおかげです」
「えー、そうかな~」
「そうですよ。間違いないです。あ、あと……」
「どうしたの?」
「ごめんなさい。わたしのせいで、勉強時間減っちゃいましたよね。それで、優勝できなくなっちゃったんじゃないですか?」
おれは、隣の源さんと話をしている。彼女は、そう言ってしゅんとなる。
「そんなことない。あれは、おれの実力不足と、かな恵が本当に強かっただけだからさ」
「かな恵っ……?」
後ろで、かな恵さんの顔が真っ赤になっているが気にしない。
「ありがとうございます。本当に、桂太先輩ってやさしいですよね。あの、おぼえていますか。約束?」
「ああ、あのゆびきりした……」
「そうです。あの約束はたしてください」
「いいけど……。具体的になにをすればいいの?」
彼女は、少しうつむきながら口を開く。
「わたしのこと、下の名前で、呼んでくれませんか?」
「そんなことか~。いいよ。葵さん?」
「あ、ありがとうございます」
本当に素直でかわいい後輩だ。見ていて癒される。
ちなみに、テーブルの下では、おれの足をふたつの足が蹴りこんでいた……。




