第四百五十八話 嬉野流vs四間飛車
完結に向けて、大詰めです。あともう少しお付き合いくださいm(__)m
部長が後手となった。
いつものように四間飛車を採用してくるはず。
私にはいくつもの選択肢があった。
選択肢1。
いつぞやのように、筋違い角を採用して、部長の四間飛車を妨害する。
これが私の本来の本命プランだった。
部長とまともに正面からぶつかれば、私の今の実力なら勝ち切れる保証はない。だって、私の目の前にいるのは、いつもの優しく気さくな部長じゃない。高校三年間で、ひたすら将棋に打ちこんで、自分を鍛え続けてきた最強の女としてトーナメントをのし上がってきた勝負師"米山香"。
地区大会の個人戦準決勝で相まみえた時よりも、オーラが違う。あの時よりも、勝つための執念がこもった表情をしていた。負けたら問答無用で引退なのだから、当たり前か。最後の対局は、大好きな人と地区大会以上の最高の舞台で、指す。
その決意を私は知っているから、この選択肢は選べない。
それで勝っても、私は本当に勝ったと言えないから。
プライドとプライドのぶつかり合いじゃなければ、兄さんを勝ち取れない。
だから、今日の私は選択肢2でいかなければいけないんだ。
真正面から殴り合う。
ただ、それだけ。
地区大会で、部長にポンポン桂は通用しないのがよくわかった。
ならこれしかない。
「先手6八銀」
嬉野流。
部長の魂の戦法とぶつかるならこれしかない。
※
私が、嬉野流と出会ったのはいつの時だろう。少なくとお父さんと将棋をしていた時ではないはずだ。お父さんは、私に王道戦法ばかり学ぶように言っていたから。
矢倉や四間飛車、中飛車、角換わりの知識が、私の将棋の基礎にある。
「基礎を固めておけば、どんなことでもうまくなる」
お父さんはそう言って、私に基本的な定跡と、詰将棋、手筋の問題集を詰め込んだ。
だからこそ、私は自由な将棋を指すことができるようになっている。
ありがとう、お父さん。
この嬉野流との出会いはきっと、お父さんが死んだ後の、ネット将棋だと思う。
がんじがらめになった定跡とは違う、本当に自由な将棋。
そこでは、私がやりたいことが優先されて、そこには本当に自由があった。
お父さんが教えてくれた知識をそこでは存分に披露できた。
将棋の盤上には宇宙がある。
嬉野流には、その宇宙を自由に渡れる力がある。
だからこそ、私はこの戦法を愛している。




