第四百五十四話 手紙
おかげさまでラスト直前ですが40万PV突破しましたm(__)m
いつも本当にありがとうございます。
「本当はね、お父さんがかな恵に直接、渡したくて、ずっと机に入れていたものらしいの」
「……」
「でもね、結局渡せなかったのよね。お父さん、意地っ張りで、恥ずかしがり屋だから」
「うん」
「だから、こういう回りくどい手紙にしたんだと思うんだ。それだけは、わかってあげて」
私は、うなづいた。
「でも、どうして、このタイミングで? もっと、早く教えてくれたっていいのに……」
「それは、たぶん、読んでもらえれば、わかるわ。私は、お父さんの気持ちを優先したの」
「わかった」
そして、私は手紙を開いた。
―――――
かな恵へ
おまえの重荷になりたくないから、この手紙はお前が将棋を再開したら渡そうと思っている。
いつも、厳しく将棋を押しつけてしまってごめんな。
おまえが将棋を辞めるって言ってた時、正直、親としてはホッとしたんだ。
かな恵の可能性を信じているっていつも言っていたのに、最低だよな。本当は俺が止めることを待っていたんだよな?
でも、かな恵にはそれがいいと思ってしまったんだよ。
俺は、上に行くために、必死で努力して、将棋を嫌いになっていく人を何人も見てきた。
プロになるために、頑張れば頑張るほど、結果が出なくて、挫折して、自分の人生のすべてをかけてきた将棋という夢すら失わなくてはいけないひとをたくさん見てきた。
将棋には呪いみたいなところがある。
その呪いに囚われて、自分の大事な娘が、人生を狂わせるのを、俺は見なくていいんだ。
かな恵が将棋を辞めるって言った時、最低だけどそう思ってしまったんだよ。
だから、俺からはもう、かな恵に将棋を強制しない。
かな恵が、自分から将棋を指したいと心から思うまで、俺はずっと待っている。
そして、かな恵が、本当に将棋をしたい、将棋が大好きだと気がついたら、また将棋をしような。
将棋には、呪いみたいなところはたしかにある。
でも、将棋の本質は、人と人を繋げることにあるんだよ。
俺は、そう信じ続けている。ずっとずっと、信じていたんだ。なのに、一番大事なことを叶えに伝えられていなかったんだよな。将棋によってつながった友だちは、一生の宝物なんだって。
だから、次の将棋からは、かな恵にも仲間を見つける旅にして欲しい。
俺は、焦りすぎていたのかもしれない。
かな恵の才能が、魅力的すぎて、本当に大事なことを教えられなかった。師匠失格だよな。
次に、かな恵と将棋を指すことを楽しみにしているよ。
父より
――――――
失ってしまった最愛の人からの手紙。
それは、厳しかった将棋指しとしての知多悟としてではなくて、優しかったお父さんの温もりに包まれていた。
また、ふたりで将棋を指したかったな。
最初は、家族の遊びとしてはじめた将棋。最初は、八枚落ちからはじめて、お父さんはわざと負けてくれた。褒められるのが嬉しくて、嬉しくて……
あの時は、私はお父さんのためだけに将棋を指していた。
でも、
今は違う。
私には、みんながいる。
そして、大好きな人も、将棋がつれて来てくれた。
(私も見つけたんだよ、お父さん)
決意は固まった。




