第四百五十話 奇襲vs奇襲
兄さんと部長は準決勝にたどり着いた。
残るは、私だけだ。
準々決勝の最後のカードは、私と右玉の女王さん。
私たちのはじめての練習試合で、兄さんと戦った沢藤女子高の大黒柱。
数か月前までは、天の上の存在だった。
でも、今では、私は彼女と同じ舞台に立てている。
私は、自分の時計の針を前に進めることができたから……
「お久しぶりです、奏多さん。よろしくお願いします」
「ええ、お手柔らかに」
※
「さあ、王竜。ついに準々決勝も最後のカードになりましたね」
「はい。個性的な組み合わせですね。佐藤かな恵さんは、ここまで全局"嬉野流"。それに対して、奏多さんは全局"右玉"できました。これは、本当にすさまじいですね。我々プロはここまで一貫としてマイナー戦法を使うことはほとんどないので、二人の自由な将棋がうらやましくなりますね」
「特に、彼女は、王竜のにお気入りですもんね」
「そんな人聞きの悪いこと言わないでください。ネットで叩かれてしまいますから」
「それは申し訳ありません」
「それに、彼女は恩人の娘さんなんですよ。彼女は知らないと思うんですが、お父さんを通して、何度か棋譜をみせてもらったことがあります。本当に昔とは棋風がうって変わってしまったんですが、本当に楽しそうでなによりです」
「それもあって、昨日、無名の彼女を優勝候補に推したんですね?」
「いやいや、そんなことないですよ。彼女の将棋は、荒いんですが、勝利をつかみ取る不思議な力がある。それが魅力なんですよ。最後には彼女が勝つんじゃないか。そんな気がしますね。知……いえ、佐藤かな恵さんは……」
※
私が先手となった。ここはやっぱり、嬉野流でいく。
右玉に組むのには、かなり時間がかかる。なら、陣形が完成する前に、ポイントを稼いでおく。
私は、銀をドンドン前に進めて、攻勢をかけた。
奏多さんの右玉が完成した時には、私の攻撃はかなり進行していた。
いける。ここまで来れば一気に仕留めることができる。
私は、攻めを継続しようとした瞬間、一つの落とし穴が待ち構えていた……




