第四百四十九話 永遠のライバル
ねじり合いが続いている。
まるで、江戸時代の将棋のような乱戦だ。
定跡なんて、当時はほとんど存在していなかった古典的な将棋。こういうのは山田くんの得意分野のはずなのに--やっぱり私は彼の影響も強く受けている。
お互いの読みの力で戦う殴り合いは、いつもの定跡形の将棋以上に相手を理解することができる。
そこには先人たちの築いた知識の総体が存在せずに、自分のすべてをさらして戦わなくてはいけないのだから。
そういう意味では、かな恵ちゃんは本当に強い。盤上において、彼女は自由に自分を表現する。"天衣無縫"。天女たちの衣には縫い目がないほど自然で美しいことを意味する言葉。
まさに、彼女のためにあるような言葉だ。
人は、生きている限り、人に影響を与え続けていく。
"黄金世代"。かつて、将棋界において、最強を誇った棋士グループの別名。
彼らは、小学生時代からライバルとして切磋琢磨し、10代から20代の内に将棋界のタイトルを総なめにした。彼らは、その中でも最も実績がある一人の名人を目標に、数百年の歴史を誇る将棋の定跡の至るところに革命を巻き起こした。
彼らはライバルのはずの同年代の棋士がいたから、自分はここまで来ることができたといつも言っている。たぶん、私もそうだ。
彼の存在が大きすぎて、一度は自分の将棋に絶望してしまったけど、彼がいなければここにいない。たぶん、桂太くんにも、みんなにも会えなかった。そして、彼との因縁もたぶん、これからも続いていく。
大学将棋でも……
社会人になっても……
一番のライバルは、彼のはずだ。
ありがとう……
そして、これからもよろしく、ね。
私は泥沼で、ひとつの光を見つける。
それが泥沼の先にあった唯一の抜け道。
私の勝利につながる変化。
また、ひとつ、私は奇跡に近づいた。
もう一度、高校最後の将棋を、彼と指すという夢に……




