第四百四十八話 幼馴染
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「よろしくお願いします」
私の対局が始まった。準決勝をかけた大一番で、また山田くんとは、運命もなかなか意地悪なことをしてくれる。
ある意味で、私と彼は幼馴染の関係だ。
ずっと同じ県で優勝争いを演じて、お互いの棋風が逆になるくらい、強い影響を受けて、そして、私たちはまた、トーナメントの上の方でぶつかる。
何年も、この関係が続いている。対局結果は私の方が悪い。
私たちは、相手のことをよく理解している。棋風、好きな形、終盤に詰みを優先するか必死を優先するか。でも、この2年間で私は閉塞感があった自分の将棋を大きく変えることができた。
私は彼の知っている私ではなくなってきている。
この2年間での出会いと、大事な青春の思い出が、新しい私を作り出しているから。
大事な対局だから、これを使う。
宗歩流四間飛車。
これが新しい私。高校生活で作りだした古くて新しい四間飛車。
今日が総決算の私たちの絆の結晶。
この四間飛車の厚みを崩せる?
私は、永遠のライバルを挑発する。
彼は、優しく笑った。
いつも通りだ。
でも、私にはわかる。この笑顔の意味が……
(ぶっ潰してやるよ)
彼はこういう時に不敵な笑みを浮かべる時は、戦闘モード全開のときだから。
彼は、穴熊を放棄して、急戦に転じる。
「やっぱりね」
先週、私が団体戦の準決勝で、この宗歩流四間飛車を披露したことはたぶん、みんなが知っている。
だからこそ、対策が用意されるのは当たり前のことだ。
この宗歩流四間飛車は、完成までに時間がかかる。だから、対策は、完成前に攻め潰すこと。
わかりやすい対策。だからこそ、この切り札を個人戦まで温存しておきたかった。
まあ、泣き言を言っていてもはじまらない。
この切り札は、二段重ね。
つまり、急戦が相手でも手段はある。
それは、泥沼だ。
この切り札は、二面性がある。
持久戦には桂太くんの将棋のように厚みを作り出して、対抗する。
その反面、じっくりした将棋は、相手の早い攻撃に弱い。
その時にどうすればいいのか? それを考えておかなければ、この将棋は指せない。
私が考えた対策は……
かな恵ちゃんの将棋を見習うことだ。
この将棋は、元々江戸時代の将棋が元になっている。つまり、今の高校生はこの将棋をほとんど知らない。なら、お互いに未知の局面で戦えばいい。
たぶん、私とかな恵ちゃんの将棋は似ている。
彼女が攻撃的で、私が守備的という違いはあるものの、本質は同じ。
かな恵ちゃんは、序盤から誰も見たことがないところで将棋を始める。
私は、終盤に誰も見たことがない形を作って将棋を終える。
ある意味、似た者同士なんだよね。
だからこそ、同じように指す。
簡単だ。序盤から、泥沼を作ってしまえばいいのだから。
泥沼に相手と一緒に潜りこんで、泥にまみれて討ち取ればいい。ずっとやってきたことだ。それが、遅いか早いかの違いでしかない。
ただ、いつもよりも早く深い泥沼を作ってあげる。
あなたの知らない私。
見せてあげるよ、山田くん?




