第四百四十四話 鼓動
「終わった」
私は自室のベッドにもぐりこみ一息ついた。
私は、なんとか2日目まで生き残った。
京都大会準優勝者、熊本代表、そして教育大付属の最強のオールラウンダーを全員ねじ伏せて、私は次のステージまで勝ち上がった。
本当にギリギリの戦いを続けてしまった。特に、犬養さんとの対局は私の罠をすべて回避されたから1度千日手に誘導して、またゼロからやりなおした。嬉野流対三間飛車のギリギリの戦いで、私はあいてのわずかなスキを見つけて、そこをついて逆転した。たぶん、今日の将棋はほとんどが逆転。
いつから私はこんなに泥臭い将棋になったんだろう?
絶対に、あのひとのせいだ。
隣の部屋に彼がいるのに、なぜだかとても遠い場所にいるような気がする。帰りの電車でも、お互いに疲れていたらからほとんど話さなかった。
私はスマホを手に取った。
最後の夜に、言っておきたいことがあったから……
「かなえ?」
「はい、私です」
「どうしたの?隣の部屋なのに、わざわざ電話なんて」
「こうすることでしか、話せない気がしたんです」
「えっ」
「いまの私たちには、こうしないと話せない距離があるんだと思います」
「……」
「だから、言わせてください」
「……」
「明日、兄さんに、大事なお話があります。だから……」
「だから?」
「明日の2日目。決勝戦まで来てください。そこで……。私も兄さんも逃げられない、そこで、私の話を聞いてください」
「おれが、決勝まで行けるっていう保証は、ない」
「それは、私だってそうです」
「なら」
「でも……。私は信じています。兄さんは、桂太さんは決勝に来てくれる。絶対に勝ちあがってくるって」
「……」
「だから、絶対に上がってきてください。約束ですよ」
「うん、がんばるよ」
「待ってます。絶対に……」
そう言って、私は電話を切った。
これで、明日のボスラッシュはもう負けられない。
私は覚悟を決めて、布団に潜りこんだ。
心臓の鼓動が、止まらない




