第四百四十二話 宇宙と自由
私の二回戦が、みんなとは周回遅れではじまった。
つい数分前に200手近い1回戦の対局を終えたばかりなのに、もう対局だ。さっきの終局時は、周りはほとんど2回戦の終盤だった。進行上、私はあまり休憩時間を取れないまま、2回戦を迎えた。
正直、この連戦はかなり厳しい。1回戦で、すでに2局分くらいの将棋を指しているし。
でも、将棋は待ってくれない。
私は、再び嬉野流を採用した。
これはある意味では、思い出の戦法だから。
兄さんと、現実ではじめて指したとき、これを使ったから……
だから、今日はすべてこの嬉野流でいくと決めていた。
相手の子は、京都大会準優勝の猛者。
プライドが高い人みたいだ。私が嬉野流の手を指すと、顔をしかめた。奇襲戦法が好きではないんだね。
もったいないな。
将棋は、盤上において無限の可能性を持つ。人間や最新AIですら、その可能性の半分も引き出せていないはずだ。そして、プロでもない私たちは、制限もなく盤上において自由を謳歌できる。
兄さんや部長のように、定跡を追い求めるのもいい。
定跡は、人類が作り出した伝統的な知性の積み重ね。それを堪能するのもまた、将棋の醍醐味。
でも、私は違う。
人間の知性が、まだ届いていない部分を見るのが好き。
そこはなにがあるかわからない場所で、何にでもなれる。
81マスしかない盤上において、そこに宇宙があり、無限が広がる。
その数字で構築された理論の宇宙を、私は泳ぐ。
私の将棋にはムラがある。
それは、この自由な世界を泳ぎ切るためには、メンタルが一番大事だから。
つみ重ねた知性からも、離れた場所で、私はひとりで戦っていたから……
でも
今は違う。
今は、みんながいる。仲間がいる。
そして
好きなひとがいる。
だから
最高のコンディション。
もう、誰にも負けたくない。
いや
負けるわけにはいかないっ!




