第四百四十一話 嬉
「部長、お疲れ様でした」
「うん、ありがとうね」
私たちは、試合が終わった部長を出迎える。
部長は、危なくげもなく初戦を快勝した。
第6シードとして、部長は二回戦から試合に登場した。
桂太先輩は、初出場ながら山田さんを倒した実績から第4シードに入っている。
部長が四間飛車で、相手の居飛車穴熊を姿焼きしてしまった。
「序中盤は、よかったんだけど、安全勝ち狙っちゃった。終盤、少しだれちゃった」
「それでも、快勝ですよ。3回戦進出おめでとうございます」
「うん、次も頑張るよ」
「ところで、二人の様子は?」
「えーっと……」
そう言って、私たちはふたりの対局を見つめる。
桂太先輩は、対ゴキゲン中飛車に対して、超速に構えて、有利になったらひたすら受けて勝ち切ってしまった。うん、やっぱりな。
そして、かな恵ちゃんは……
まだ、1回戦を戦い続けていた。
たぶん、200手を超える凄まじい力戦。かな恵ちゃんは、嬉野流を採用して、うまくかわされたと思ったら、ひたすら泥臭く粘る将棋に変わった。
部長や桂太先輩のように、切れ味の鋭い粘りというよりも、なんとか勝ちを拾うための粘りかた。
これは、まるで、昔の桂太先輩のような……
楽しそうな将棋。
相手の一瞬の攻めあぐねを見た瞬間、かな恵ちゃんは一気に攻めにもっていく。
ほんのわずかな敵陣のスキを突いて、一気に逆転した彼女の表情は……
とても楽しそうだった。




