第四百三十三話 決勝戦
葵side
「決勝戦は、北海道代表対C県代表の高校の組み合わせになりましたね。本局の解説は山井九段です。山井九段、本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
ついに決勝戦が始まった。決勝に進出した私たちは、個室が用意されて、そこで生中継を見ながら、応援することとなっていた。
「北海道代表の早来高校。北海道東北エリアでは、圧倒的な実績を誇る雪国の雄ですね。居飛車党本格派で固められたメンバーで安定感ある成績が持ち味です。それでは、初戦が始まります」
文人先輩が映しだされた。
「先手番になった丸内君は、角換わり腰掛け銀に誘導しましたね。これは、序盤が大事な戦型ですが……」
「ああ、これは丸内君の用意していた手でしょうね。振り飛車党の私が言うのもなんですが、凄まじい切れ味ですね。う~ん、これは決まってしまったかもしれません」
「序中盤で、大差がついてしまいました。こういう切り合いの将棋だと、大差がついてしまうと、粘るのも難しいですね。早来高校の先鋒が投了しましたね。丸内君が先勝です」
文人先輩の研究手順に相手のひとがはまってしまい、圧勝ともいえる棋譜だった。
「じゃあ、俺も行ってくるよ」
桂太先輩が立ち上がって、会場へと向かう。先輩は、落ち着いた表情になっていた。
私たちはうなづいて、彼を見送った。
「次は、エース対決ですね。アマチュア最強の豊田君に善戦した佐藤桂太君と、北海道最強の春田くんですね。お互いに居飛車党正統派です」
「戦型は、矢倉対雁木になりましたね。矢倉の佐藤君が、受けまくる展開になると思います」
「春田君の雁木が少し無理攻め気味のような気がします」
「ああ、やっぱり佐藤君の受けはうまいですね。完璧に咎めています」
桂太先輩がかなり優勢になった。いつもなら、ここで一気に勝ちに行くはず……
そう思っていた私たちは、彼の次の一手に驚く。
「「「「えっ……」」」」
「うわ~、馬を自陣に戻しました。これは、友達を無くす手ともいえる一手です。普通にしていても勝てるはずなんですが……。やっぱり、決勝ということもあって、確実に勝てる手を選んできました。これは、春田君としては、泣きたくなりますね。攻め駒が蹂躙されるはずです」
本来の桂太先輩なら指さないような一手だった。いくら決勝でもここまで勝負にこだわるのか。私は疑問に思いながら、先輩の顔を画面越しで見つめる。
いつもは、楽しそうに将棋をしている桂太先輩が、とても苦しい顔をしていた。




