第四百二十九話 救世主
<渋宮side>
私には両親がいない。なんでも、私が小さいころに事故で亡くなってしまって、私が父だと思っていたのは、本当の母の弟だった。
今考えると、それは結構ショックだったんだろう。その事実を知ったのは、私が8歳くらいの時で、親が本当の親ではなかったというのは、よくわからないなりに、私は傷ついたのだと思う。育ててくれた伯父夫婦は、私を本当の娘のように扱ってくれた。3つ下の弟は、いまだにその事実を知らずに、私を本当の姉だと思っている。
私は、弟が一心に受ける愛情を奪い去ってしまったのではないかと、不安だった。
本当に私がここにいいのか。私の本当の居場所はどこなのか。
子どもだからこそ、怖かったんだと思う。
そんな時、弟と共用で遊んでいたゲームソフトの中に、救世主がいた。
将棋のソフトだった。
たくさん、ボードゲームが入っている一本の中に、将棋はいた。
私はすぐにそれに熱中した。
そのソフトを簡単に倒せるようになると、インターネットの世界に、私は救いを求めた。
少しずつ、私はその世界に浸っていく。
そして、いつの間にかこうなっていた。
ただ、現実で将棋をする必要はなかった。私は、ただひとりで将棋の世界にいることができればそれでよかった。誰かがそこにいるよりも、将棋の盤と駒、そして、相手側をもってくれる腕さえあればそれでよかった。
そんな時、私に転機が訪れた。
何気なく出場したネット将棋の大会で優勝したことだ。その大会は、どうやらアマチュア全国大会の予選にもなっていたようで、履歴書にも書けるくらいのちゃんとした賞状をもらってしまった。
そのまま、私はアマ四段の免状を手にいれて、通っていた中学校ではお祭り騒ぎ。さらに、将棋の名門校まで、私をスカウトに来るくらい。そのなかで、一番の強豪校を選んで私はここに居る。
豊田政宗以外、特段強い人がいなかったのが残念だった。全国までくれば、おもしろいやつがいると思っていたのに、ここまで出番なし。
やっと出会えた奴が、まさか<kana kana>とは思えなかったけど……
でも、ここまでの数手で、彼女がいつもの彼女ではないことに気づく。
いつもはドス黒いオーラが見えたのに、今日の彼女は、輝いていた。
連れ戻してあげなきゃ。だって、彼女は私側の人間なんだから。
※
<かな恵side>
彼女の攻撃は、一気に激しさを増して、私は守勢に回る。
これは無理攻めのはず。だが、短い時間でちゃんと対処できるかどうかはしっかりと考えなくてはいけない。
たぶん、彼女は私と同じ側の人間なんだ。
だからこそ、今回は負けられない。
だって、そうでしょう?
ここで負けたら、この数か月はすべて否定されることになる。
昔の私に負けることになる。
やっと、人が持つ輝き信じることができるようになったのに、それを相手に見せることができなくなる。そんなのは嫌だ。
救ってあげる。そんなことを言うのは、おこがましいとわかっている。でも、私が、大好きな人が見せてくれた人の温もりや、将棋の楽しさがわからないなんて、悲しすぎる。
だから、絶対に……
負けないっ




