第四百二十四話 銀翼
みんなに力強く「行ってきます」とだけ、伝えた。「うん」と兄さんたちが返してくれる。
私は、戦場に向かった。最後に兄さんを見つめたけど、うつむいていた。やっぱり、さっきの敗戦がショックだったみたいだ。少しでも慰めたい。そのためには、勝つしかない。
やっと、兄さんに少しでも恩返しできるチャンス。これを逃すわけにはいかない。
「かな恵ちゃん……」
「部長」
「よろしくお願いね」
「はい、部長が繋げてくれたバトンを決勝まで持っていきますよ」
「頼もしいわね。さすがは、私のライバルよ」
「負けるつもりは、ありません」
「どっちのこと?」
「どっちもです」
そう言って、私たちは笑った。
会場に入った。仄暗い廊下から、広くて明るい場所に到着する。準決勝は、テレビの放送もあるから、会場には中心に盤がひとつだけ。
そして、そこにはひとりの女の子が座っている。長く美しい髪をひとつに縛って、高めの身長からくるスタイルの良さが際立っている。同じ一年生なのに、余裕がある笑みをうかべて、長い脚を組んで私を待っていた。
「やっと来たわね。私の対局相手!」
「はい、はじめまして、佐藤かな恵です。よろしくお願いします」
「はじめましてー? えー、覚えてないの? 悲しいなぁ……」
「えっ?」
一度見たら、渋宮さんのようなキレイな人を忘れるわけがない。ということは、まさか……
「改めまして。kana kanaさん?」
「やっぱり、ネット将棋の関係者か」
「あなたの棋風は特徴がありすぎて、すぐにわかっちゃったわ。隠すつもり一切ないでしょ~」
「ぐぬぬ」
まあ、とあるラノベ主人公は、全く気がつかなかったんだけどね。
「あなたのハンドルネームを聞いてもいい?」
「そんなに怖い顔しないでよ。やっと、将棋ができるから、私はワクワクしてるんだからさ。だって、2日も人の将棋を見ているだけだよ。チーム戦なんて暇すぎだよー。私は将棋を指したいのにさ」
「……」
「ああ、ハンドルネームね。内緒にしていてよ。恥ずかしいから」
彼女は、天使のような不気味な笑顔で言った。
「Silver wings」




