第四百二十三話 縁(きせき)
部長が勝利して、私たちの夢は繋がった。
もしかしたら、私に回ってこないかもしれない。そんな不安が、違う不安に上書きされる。
もしかしたら、私がみんなの夢を潰してしまうかもしれない。
相手は、豊田政宗の後継者。
史上最高の原石。
いろんな噂が飛び交っている謎の人物だ。
私と同じ1年生。個人戦の予選では、オーソドックスな将棋で、向こうの部長の犬養さんを破って準優勝。
実績も抜群の怪物。どうして、ここまでの逸材がいままで無名だったんだろう。でも、勝つしかない。
いつのまにか、みんなが私の居場所になっていた。将棋は、私にとっての呪い。複雑な気持ち、恐怖に打ち勝つために指していたあの頃とは、また別の気持ちに包んでくれる。
ライバルは多い。でも、彼女たちとも、私は将棋で繋がっている。それがどうしようもなく、嬉しかったんだ。私は今まで、人と交わらないように生きてきた。
将棋を呪いだと思いこんで、それを忌々しき逃げ場所にするような卑怯な女だった。それを変えてくれたのが、兄さんであり、この将棋部。
少しでも長く、みんなと長く仲間でいたい。
そして、これからも仲間でいたい。人間の縁は、少しずつ広がって深くなっていく。その連鎖が奇跡なんだ。私はもう少しその余韻にひたっていたい。
そのためには、次の対局で全力を出すしかない。
中途半端にやったら、私は、この数か月の縁を否定したことになる。




