第四百二十二話 将棋廃人
<教育大付属side>
「犬養部長が、負けた……」
「紘一……」
副部長と相田先輩は、画面を見て、絶望した口調だった。たしかに、あの犬養部長がこんなに大敗するなんて初めて見たよ。ビックリだね。
私以外の部員が大将だったら、たぶん相当、動揺していたよね。だって、全国3位の部長が惨敗しちゃったんだもん。彼は、みんなに頼りにされていたしね。将棋は精神力が大事なゲーム。ここで犬養部長に勝ったという事実は、向こうのチームにとっては追い風になっているはず。
ふつう、ならね。
でも、私がその程度で動揺することはない。だって、犬養部長は私よりも弱い。だからこそ、どこで負けたっておかしくない。
だって、この大会で、絶対的な存在は、豊田センパイと私だけなんだから。
しょせん、団体戦は通過点。私は、都大会のリベンジを全国の決勝でやるだけだ。
この日のために、私は将棋に打ちこんんだ。授業中も、隠れて詰将棋を解いていたし、脳内将棋盤でひたすら棋譜を並べていた。授業なんて、ほとんど将棋の勉強時間。
放課後は、とりあえず部活に出て、暇そうな人を見つけてひたすら早指将棋だ。誰でもいいから将棋を指す。やる気がない部員は、先輩だろうが誰であろうが感想戦でもボコボコして引退に追いやる。名門校でも、レギュラーになれずに腐っているひとがたくさんいる。副部長は、自分のことを"元"天才だと自嘲していたけど、さすがに言いすぎ。
あんなに頑張っている副部長が、そうだったらやる気のない部員たちは"腐ったミカン"。周囲に悪影響がでるし、数年前の過去の威光にすがっている人なんて、いらない。
私の将棋上達の邪魔になるだけ。
それなら排除しちゃう方がみんなのためでしょ。私みたいな無名の1年生に実戦でも、感想戦でもボコボコにされたら、もう過去の遺産なんて吹っ飛んでしまう。レベルの高い人ややる気があっておもしろい工夫をする人だけが生き残る。
そんな私のための楽園が、生まれる。
私は強くなるためだけに、学校に行った。
そして、部活が終わると、すぐさまネット将棋三昧だ。家のパソコンに、今日の将棋をすべて再現して、解析させる。分からないところはすべて教えてもらう。
あとは、実戦を繰り返すだけ。たぶん、1年後には豊田政宗にも負けない怪物になっているはず。
さあ、供物をいただこうとしようかな。私が、もっと強くなるための栄養を……




