第四百二十一話 夜明け
思ったよりも早い。さすがは、高校生最強のオールラウンダー。もう順応してきた。
でも、逃げ切る。
この戦法の最大の良さは、先攻逃げ切りができること。最初に厚みを作っておけば、あとは逆転を許しにくい展開になる。
だからこそ、犬養くんは、完璧な陣形が完成する前に、動かなくてはいけなくなった。すべては、私の計画通り。
ここから先……
犬養くんの進む先、盤上のすべてが……
泥沼になる。
彼の動きは、すべて泥沼に飲まれていく。指す手がなくなり、しかたなく指した手は悪手に繋がる。
これは、桂太くんと私の卒業作品だ。
彼の厚みと、私の粘り。それが組み合わさって、この大泥沼は生まれた。
文人くんのようにしっかりした事前研究と、かな恵ちゃんのように常識にとらわれない盤上の奔放さ、そして、一度チャンスをみつけたら確実に仕留めきる葵ちゃんの終盤力。
それらがすべて合わさってこの将棋はできている。
だからこそ、負けるわけにはいかない。
犬養くんだって、重いものを背負っていることは分かる。
伝統校の部長としての責任、負けられないプライド、好きなひとたちへの思い。
だからこそ、全力で潰さなくてはいけない。それが将棋指しの義務であり、責任でもある。
私は、罠にはまった玉座の主席に向かって、介錯のための引き金を引いた。
これが、革命の夜明けになることを信じて……




