第四百二十話 男たちの物語
桂太side
俺は、なんとかみんなの席に戻ると、部長の対局を見つめる。
彼女は、すさまじい陣形を作りだして、居飛車穴熊に勝負を挑んでいた。
それは、俺が好きな矢倉のように手厚い陣形でみたことがない将棋。まるで、かな恵のように自由な序盤。こんな部長は見たことがなかった。
「彼女は、秘密で勉強していたからね」
「高柳先生とですか?」
「まあ、自分も少しは協力したよ。でも、ほとんどは独学のはずだよ」
「……」
「なんだい、少し嫉妬しているのかい?」
「からかわないでください」
「ごめんごめん。でも、彼女の計画では、あの宗歩流四間飛車は団体戦では封印されるはずだったんだ」
「えっ」
「下手に情報を開示すると、個人戦までの1週間で取りこまれる。だからこそ、ギリギリのところまで隠すつもりだったんだよ。すべては最強に勝つために。でも、彼女は自分自身だけの利益よりも、チーム全体のことを優先した。これが、彼女の高校生活3年間の集大成。ちゃんと見てあげてね」
そう言って、先生は笑った。
※
犬養side
なんという陣形だよ。
普通の四間飛車対策しか用意していなかった俺は、あっけにとられる。盤の中央に巨大な要塞が誕生し、俺の攻撃を完全に塞ぎこもうとしていた。
これは間違いなく、米山の切り札だ。このままでは、陣形の圧力に押しつぶされる。なんとか打開しなくてはいけない。だって、そうだろう?
このまま簡単にやられたら、伝統校の歴史を背負った部長としての責任……
そして、
彼女の期待を裏切ることになる。
だから、負けられない。
わずかなすき間を作り出すために、陣形の駒が少ない右辺で俺は積極策に動いた。




