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第四百十八話 伝説

「なんだこれは」

 さすがのオールラウンダーでも、やっぱりこの定跡は知らないようだ。この会場で知っている可能性があるのは、たぶん高柳先生くらい。

 私たちは、この戦法を極秘で1年間研究している。この研究については、桂太くんにも内緒だ。


 本来であれば、個人戦まで秘匿(ひとく)しておきたかった取っておきのもの。どうして、隠しておきたかったのかと言えば、団体戦から個人戦まで1週間あるからだ。その時間があれば、豊田政宗なら私の研究をひっくり返すこともありえる。だから、本番まで避けて、打倒・豊田政宗のための切り札にしておきたかった。


 しかし、部長として、団体戦の準決勝で手を抜くことはできない。可能性は繋ぎとめておきたいの。

 この2年間誰もなし得ることができなかった「打倒・教育大付属(玉座陥落)」のために……


「わからないでしょ。これが私の奥の手だよ」

 全国最強クラスのオールラウンダーを自分の領域に引きずり込む。

 これは深く暗い歴史が積み重なった泥沼。

 約200年前に生まれて、人々の(つむ)ぐ歴史の中で細々と受け継がれてきた伝説を私の手で(よみがえ)らせる。


 私は角の移動経路を開いた。

 本来はあまりいい手だと言われない四間飛車の禁じ手(タブー)

挿絵(By みてみん)


 これは四間飛車の最大の利点である、美濃囲いの守備力を犠牲にして主導権を握るための作戦。不退転の決意で私は、前に進む。犬養くんは、居飛車穴熊を目指す。私の薄い守備力を咎める作戦だろう。


 それもすべて計画通り。

 そして、私の理想形が誕生した。

 桂太くんの得意戦法"矢倉"のように、縦に対して厚く構える。本来なら横の攻め合いになる四間飛車においてまったく異質の戦法。


 これが、宗歩(そうふ)流四間飛車。

挿絵(By みてみん)


 かつて、江戸時代において無双の棋士とも呼ばれた"棋聖・天野宗歩(あまのそうふ)"が好んだ形が200年ぶりに復活した。


―――――――

人物紹介

天野宗歩(1816-1859年)……

江戸時代最強の名人と言われた大橋宗英(おおはしそうえい)と双璧をなす伝説の将棋指し。

歴代最強の棋士として、現代でも大山康晴十五世名人・羽生善治永世7冠に並び称される伝説。

家柄の問題で、名人になれなかったが、その実力は「十三段」「棋聖」とも称される。

素行不良でかなりの問題児だったとされる。江戸時代の棋士にもかかわらず、現代的な駒組やスピード感覚を持ち、上述の大橋宗英とともに、江戸時代のオーパーツ的な扱いを受ける。

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