第四百十六話 それぞれの責任②
教育大付属side
「おつかれさま、あずさ」
俺は彼女とすれ違う。まあ、狙ったわけだが。
「ありがとう、紘一」
彼女は、厳しい顔をしていたのに、俺を見つけると表情が緩む。
嬉しかった。あずさが、俺だけに見せてくれる表情だから。
「勝ったよ、私、勝てたよ」
そう言って彼女の腕が俺の背中に強く当たる。安堵感と、わずかな後悔。自分の主義主張とは別のことをやってしまったから。そこまでして、チームとして勝ちたかったという強い思い。
「すごかったよ。本当にすごかった」
「あり、がとう」
「あとは、俺に任せろ。決めてくるからさ」
「うん、頼りにしているよ。紘一」
次の相手は、米山香。高校生最強の四間飛車使い。佐藤桂太と並ぶ向こうのエースであり、精神的な支柱でもある。だからこそ、彼女をここで倒して、決勝進出する。そうすれば、個人戦でも、あの学校の代表者たちに精神的なプレッシャーを与えられるはずだ。
絶対王者の玉座陥落は許されない。
すでに個人戦は始まっている。俺は部長として、少しでも全国制覇の可能性を高めなくてはいけない。
そして、最後には俺が勝つ。
俺は決戦の場に向かった。
※
米山side
私たちは、ほぼ同時に会場に到着する。
会釈すると、ほぼ無言で、席に着いた。
私たちは、一応、顔見知りだ。
山田くん、そして、犬養くん、私。3人のうち、誰かはよく準々決勝くらいでぶつかる。そして、勝った誰かがそのままトーナメント決勝に行くことが多かった。
前回は、私がベスト8で犬養くんに負けて、彼は準優勝。
山田くんは、別の山の準決勝で豊田君に負けた。
山田くんと私の対戦成績は、ほぼ五分。
犬養くんに対する私の勝率は、たぶん3割に届いていない。
私たちは、昔から三すくみだと言われている。
山田くんは比較的に犬養くんに強い。犬養くんは私に強い。私は、山田くんに強い。
この関係がずっと続いている。
そして、この相性最悪の犬養くんに勝たなくては、かな恵ちゃんにバトンが渡せない。
絶体絶命の状況で、私はひとつの秘策にかけた。




