第四百十三話 元天才の
倉川side
早い。
やっぱり、彼女の本質は攻め将棋。攻めると決めたら、一気に来る。
この迷いのなさ、自信。私が失ってしまったものを彼女は持っている。
それが羨ましくて、憎たらしくてしょうがない。目の前の彼女だって、それ相応の挫折はしているはずだ。教育大付属ほどでなくても、彼女の周囲のメンバーは怪物と言って差しさわりない。でも、その挫折を経験して、なお彼女は私に全力の自信をもってぶつかってくる。
なんて、眩しいんだろう。
嫉妬しかない。
彼女の若さが、素直さが、真っ直ぐな気持ちが羨ましくてたまらない。
私にとっての最後の大会は、彼女にとっての最初の大会。
そして、彼女の実力は、偽物とは違って本物だ。だから、私のような不名誉な異名にはならないで済む。たぶん、来年の個人戦の優勝候補に名前を連ねる逸材だと棋譜を並べてすぐにわかった。
存在がすでに、別領域。
だけど、将棋は才能だけじゃない。
持たざる者が、純粋な気持ちで名勝負ができる時もある。
でも、私はそんなにいい子じゃない。
むしろ、悪意の塊だ。
部活のみんなは私のことを慕ってくれる。でも、それは隠れた本当の私を知らないからだ。
でも、今日が私の最後の大会。
だから、本性を見せてもいい、よね?
天才を、私は悪意で迎え撃つ。




