表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
408/531

第四百八話 敗北

 ()()()ふらつきながら、みんなの元へと戻る。最後に何か豊田さんと話したが、内容はよく覚えていない。途中で、葵ちゃんと会った。


「桂太先輩」

「葵ちゃん……」

 少しだけ気まずい雰囲気になる。彼女の告白を断った時でも、こんなに気まずくはならなかったのに。


「ごめん、葵ちゃん」

 俺は、かわいい後輩にそう言うことしかできなかった。

「謝ることないですよ、桂太先輩。二人の対局は本当にすごかったです。もう異次元みたいな雰囲気がありました。でも最後に運がなかっただけです。みんな誰も責めてないですよ。本当に、本当に感動しました。だから……そんなに悲しい顔をしないでください」

 彼女はいつも優しい。こんないい子の好意を踏みにじってしまった自分が嫌になる。


「うん」

「じゃあ、私も行ってきます。応援、していてくださいね」

「うん、がんばってね」

「はい」

 葵ちゃんの姿が消えた後、俺はひとりでつぶやく。


「違うよ、葵ちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう、勝てる気がしない」


 そう言って、俺はトイレに駆け込んだ。誰もいないことを確認して、俺は……


「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 絶叫した。目からは透明な液体()が流れていた。



教育大付属side


「さっきの試合、すごかったね」

 相田センパイはそう言って一息ついた。

「ああ、佐藤桂太もうわさ通りの怪物だったし、下手したら負けてたかもしれないよな」

 先生もかなり安心している。


「うん、あんな連続王手の千日手みたいな手を豊田に使わせただけでもやばさがわかるよ」

「楽勝だったら、あんな手順選ばないはずだよ、豊田は」

 部長も倉川さんも同じ意見だ。でも、私にはわかる。たぶん、豊田先輩はまだ余力を残している。だからこそ、あんなパフォーマンス(演出)を見せたんだ。見た感じ、あの佐藤桂太は相当な実力だけど、まだ私たちの段階までは届いていない。


 そして、今回の対局で大きな挫折を味わったはず。なら、問題ない。豊田先輩の持っている毒は、治療に時間が必要だ。個人戦までに持ち直せるかわからない。だから、個人戦も優勝するのは、()()()。都大会のリベンジ、させてもらうよ。


「行ってきます」

 倉川さんがそう言って会場に向かった。


(あー、暇だな。早く、私の出番こないかな)

 そう思いながら、私は次の対局を楽しみにしていた。次に来るダイヤの原石を見定めるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ