第四〇六話 連続王手の
いける。俺は強い。このままなら大金星だ。
俺は、自分にそう言いながら駒を前進させていく。将棋はメンタルのゲームだ。メンタルで弱気になれば、弱気な手を指して逆転負けを喰らう。ならば、ノッテいる時は、どんどん強気に攻めなくてはいけない。攻めなければ勝てない。
この後の王手が、栄光への架け橋となる。俺は強く確信し、俺は力強く駒を打ちつけた。さあ、この後の王手から逃げるのは難しくなる。どうするんですか、豊田さん。
俺は絶体絶命のピンチに陥ったはずの玉座を見つめる。どんな顔をしているのだろうか。
期待と不安が混じったなかで、俺の前にいた最強は、静かに笑っていた。
この状況でどうして笑えるんだ。
どうして、そんなに余裕なんだ。まさか、何か抜けがあるのか? それとも苦し紛れか?
俺は次の一手を待つ。
「やっぱり、キミは強いよ、佐藤桂太くん。自分が予想したとおりだ」
王者はそう言って俺に談笑を仕掛けてくる。何が目的だ? 盤外戦術?
「そう警戒しなくていいよ。桂太くん。ここまでは、お互いに研究範囲だろう?」
「おたがいに?」
「うん、そうだよ。ここまでは、たぶんお互いに研究範囲。さすがだよ。こんなマイナーな急戦定跡は、自分くらいしかやっていないと思ったのにさ」
「えっ」
「この次の一手から、俺たちの研究は分岐する」
そう言って指した手は、俺の予想よりも数手早く、王様が逃げ出す手順だった。
俺は即座に、次の手を考える。
おかしい。いけるはずの手順にもやがかかる。
おい、まさか、これは……
やや長めの王手になる手順を繰り返すしかない……
そして、これは……
「連続王手の千日手」
「正解!」
死神は優しく微笑んだ。




