第四百五話 観戦者
葵side
「これって」
部長は、目を見開いて先生に尋ねる。
先生は優しくうなづいた。
「うん、桂太くんが、有利になってるね」
レジェンドもそう確信している。桂太先輩が、攻撃の主導権を握って、ひたすら攻めている。
最強の相手になんの迷いもなく攻め潰す勢いで。豊田さんは、飄々とした態度だ。どうして、こんなに追い込まれているのに、あんなにポーカーフェイスを貫くことができるのだろうか。
自信? 修羅場をくぐり抜けてきた経験?
豊田さんは、将棋ソフトのような降り注ぐ攻撃が得意なはずだ。にもかかわらず、ひたすら受けに回っている。局面は、もう少しで終盤だ。これなら、一気に寄せきることも可能になるはず。
嬉しいことのはずなのに、違和感がある。
私は、終盤の形をある程度、おぼえることで、詰みまでの計算を省略している。
そして、この形には何か違和感があるのだ。説明できないけど、なにか気持ち悪いような気がする違和感。
「あれ?」
かな恵ちゃんが何かに気がついたようだ。
「ねぇ、葵ちゃん? 豊田さんって、この手順で粘れないかな?」
そう言って、かな恵ちゃんが挙げた手順は、私の違和感を解消した。




