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第四百一話 ぶつかり合う才能
俺は、将棋盤の前に座り、最強の相手の到着を待った。
この時がやってきた。俺が先手で、最強が後手。ぶつけたい戦法もしっかり用意してきた。
あとは、王様を玉座から引きずり下ろすだけだ。どこまで差があるのか。奇跡は起こせるのか。俺は、答えが出ない自問自答を繰り返す。
やるしか、ない。
靴の音が響いた。
全国アマチュア将棋界1000万人の頂点。
精密機械・人間の皮を被った人工知能・2代目プロ殺し。
いくつもの異名を持つ頂点は、少しだけ微笑みながら、俺のもとにやってくる。
彼は、俺にとって、本やネットの中だけの人だった。
だけれども、その憧れの人は、俺の目の前に実在している。
簡単に、手が届く位置まで、俺はたどり着いた。
「よろしくお願いします」
俺たちは簡単な挨拶を済ませて、駒を並べる。
彼の駒を操る手は、よどみなく正確に駒を整えていく。
俺にはその優雅な手つきが、死神のように思えた。




