第四百話 伝説
米山side
ついにこの時がきた。
私は決戦に向かう弟子を見送った。
高校将棋界だけではなく、アマチュア将棋界最強の男がついに桂太くんと直接対決する時がきた。
「ついに、教育大付属も1セット落としたか」
「ああ、都大会の個人戦でも活躍した相田さんがダークホースに飲み込まれるとはな」
「そして、次がいよいよ大注目の1戦だな」
「おう、絶対王者vs最強のダークホース。来週の個人戦の結果も左右するくらいの一大決戦だよ」
「ちなみに、みんなはどっち押し?」
「「「「豊田」」」」
「佐藤」
周囲の観客たちもボルテージは最高潮。
でもやっぱり、豊田押しの声は大きい。
やっぱり、彼の実績は段違いなのだ。都大会の個人戦 3連覇、全国高校将棋大会個人・団体2連覇中、年齢制限のない全国アマチュア名人戦 準優勝、全国アマチュア王龍戦 優勝1回、ベスト4 2回。まさに、アマチュア将棋界の頂点ともいえる成績だ。
しかし、彼の成績は、対プロにおいて、さらに強調される。月間将棋主催のプロアマ交流戦無敗、アマチュア枠で登場した王龍戦6組トーナメントベスト8、夕日杯3勝1敗、宇宙戦決勝トーナメント進出、新人戦ベスト4、利根川清流戦準優勝などなど。
対戦相手は、若手やベテランが中心だが、それでも将来の名人候補とも言えるほどの好成績を上げている。特に、プロ棋戦でアマチュアが準優勝するという快挙は、ワイドショーでも大々的に放映された。
もはや、プロ編入試験も不要だと言われるほどの好成績だが、彼はあえて受験を表明した。
去年のアマチュア名人戦で彼を下した石上さんは、プロ編入試験に合格しプロ入りしているため、彼をアマチュア戦で止めることができる者はいないはずだ。
おそらく、高柳先生のようなアマチュア界の伝説以外では、同じ土俵で戦えもしないだろう。
だからこそ、桂太くんなのだ。私たちの唯一の希望は。彼の成長スピードはまるで最新のAIのような加速力をみせている。まだ、豊田君の域には達していないはずだけど、最強の存在と盤をはさむことで、さらなるスピードを上げたら……
奇跡は起きるかもしれない。
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作者解説
アマチュア将棋界の大躍進
最近は、プロとアマトップの実力差はかなり縮まっていると言われています。
やはり、将棋ソフトやインターネットの発展で、プロが圧倒的に有利に立っていた序盤の研究が、アマでもおこないやすくなり、アマトップ陣が公式のプロアマ対局でも好成績を上げています。まだ、トッププロとの実力差はあると言われていますが、アマチュアの代表が若手プロのためのトーナメントで優勝するなど、激動の時代へと突入しているのが現状です。




