第三百九十五話 無数の希望
相田side
なるほど。こう来たか。
私は、丸内君の用意した研究を見て、思わず感心してしまう。
おそらく、私はこの局面に誘導された。つまり、彼は私の研究の穴を突くために、凄まじい時間と労力を費やしてくれたのだ。
研究家として、これほど嬉しいことはない。自分の研究に抜けがあった可能性が発生している。それは、少しだけ屈辱で、そして相手からの敬意を感じる幸せな瞬間でもある。私が研究を公にしているのは、努力で才能を補完するためだ。
ひとりの研究では必ず抜けがある。だからこそ、公にすることで、多くのひとにその抜けについて一緒に研究してもらうのだ。そして、たくさんの人が考えることで、私の理解は深まり、より深く盤面を考えることができる。
豊田くんたちのような才能がない私にとって、この研究は無数のひとたちとの繋がりにおいて成立している。ひとりで超えられないものでも、何人も集まれば超えられる。
私が、教育大付属のレギュラーになれたことは、その証明。
私はひとりじゃない、無数のひとたちの努力と希望でこの場所に立てている。
たとえ、研究勝負で負けたとしても、この意志だけは負けるわけにはいかない。
それが私の矜持であり、義務だから。
私は自分が背負ったものを考えながら、手を進めた。




