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第三百八十一話 なまえ

(いける、いける、いける、いけるぞっ)


 俺は心の中で気迫をこめる。ここから先は後は気持ちとの勝負だ。俺の玉は、三段目に達した。金銀のスクラムも崩れてはいるものの、最小限の機能を有している。これならあとは点数勝負だけど、そちらも確認済みだ。あとは、王が入場し、と金を作り続ければ、最低でも引き分けだ。


 俺は辻本さんの顔を確認する。絶望に歪んでいるはずのその顔は、まるでドライアイスのように、冷たい表情になっていた。見ていると、自分の体温まで下がってしまう気がする。


 その冷たい表情の裏に、すさまじいエネルギーを感じる。

 まさか……


 いや、あれは、勝利を諦めていない目だ。まるで、ハイエナのような。獲物をギリギリまで追い詰めているような冷徹な顔で、盤面を見つめている。


 鋭利な微笑。

 辻本さんが勝ちを確信した時に、浮かべる癖だ。

 それが、いま、俺の目の前に現れた。


「すごかったよ、()()()()()()()君。俺は名前を覚えるのは苦手なんだけど、一度おぼえたら忘れない。だから、もう君のことは忘れない」

 それは、俺に向けての彼からの最大の称賛だった。辻本さんに名前を覚えられたと言うことは、それだけ実力が認められたと言うことだから。


 銀のただ捨て。

 彼が見つけた勝利の一手だった。


 これを飛車で取ってしまえば、それを取られてポイントが足りなくなって、引き分けに持ち込めない。

 だから、王は後ろに下がって、次の突撃を待つしかない。しかし、継続手がある。


 これを繰り返すと、俺の王はずるずると後ろに後退しなくてはいけなくなる。

 一枚の銀のただ捨てが、俺から最後の希望を奪った瞬間だった。


 俺は、天を見つめて、覚悟を決めた。


「負けました」

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