第三百八十話 ひょうか
「すごいぞ、あいつ。金銀でスクラム組んで、相入玉目指してる」
「辻本相手に、こっちも入玉かよ。あの学校、頭おかしいやつしかいないのか?昨日も無名の1年生が20手以上の即詰み一瞬で読んでたし」
「でも、これいけるんじゃねえのか
「丸内ってやつだよな?たしか、昨日、柿谷に勝っていた?なんで、あんなに指せるのに、いままで無名だったんだよ。下手な地方の個人戦の決勝よりもれべる高いじゃん」
「さっきから、全国個人戦準優勝の辻本に一歩も後れを取ってない。下手したら食われるぞ、優勝候補の一角が……」
「なんで、あの学校、あんなにオールスターがそろってるんだ。あの学校が全国団体戦初出場とか、どんだけレベル高いんだよ、C県予選」
少しずつ雰囲気が変わっていく。当初の予測では、文人の圧倒的に不利だと予想されていたのに、もしかしたら時代が変わるかもしれない。そんな雰囲気に、会場は包まれてきている。
文人は、自己評価が極端に低かった。そのメンタルの弱さが、本来の実力を発揮することを妨げていたのかもしれない。
でも、文人は変わった。もう、すさまじい将棋を指すようになった。
いつものあいつじゃなかった。
「文人くんが、どうしてここまで変わったかわかるかい、桂太くん?」
「高柳先生がマンツーマンで教えて、文人が頑張ったからじゃないですか」
「それは、表面的な理由だよ。本質的な原因は、桂太くんの存在だよ」
「おれですか?」
「そう、キミには周囲を変えていく不思議な魅力がある。米山くんは、キミと出会って将棋ともう一度、向き合う勇気をもらった。葵ちゃんは、キミと出会って才能を開花させた。かな恵くんは、見失っていた将棋を指す理由を取り戻した。そして、文人くんは……親友のキミに追いつきたくて、必死に努力した」
「おれはそんなにすごくないですよ」
「そうだと、いいんだけどね」
先生は苦笑いした。
俺はずっと、文人は強いんだぞって、叫びたかった。
俺だけが知っていることのはずだった。なのに、昨日と今日でそれがみんなに伝わってしまった。
嬉しいような悲しいような。
行ってこい、文人。
後悔なく、踏み込んだ勇者に俺は……
全ての希望をこめた。




