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第三百七十九話 かいぶつ

 辻本さんは、金を取った俺の動きを見て即座に馬を引き戻した。

 馬の守備力は、金銀数枚にも匹敵すると言われている。それを戻したということは、徹底抗戦の覚悟を表明したというのに等しい。しかし、さきほどの「見えた」という言葉を考えると、なにか裏があるに違いない。


 だが、初志貫徹。悩まずに、ここは攻め潰す。ここまで難解な局面なら、辻本さんでも読み切れていないはずだ。ならば、あの言葉はブラフ、はったりだ。勇気をもって踏み込む。ここでしのがれたら、俺は辻本さんの入玉を防ぐことはできない。これは、運命の決断だ。


 そのまま、順調に攻撃が進んだ。やっぱり、うまくいった。そう確信した。さあ、投了を宣言しろとばかりに、俺は辻本さんの顔を見つめた。


「やるな、あんた。でも、まだまだだ……」

 そう言うと、辻本さんの王は上に移動した。まさか、入玉か?しかし、それならまだ追いかけられる。俺は追撃の手を緩めない。これなら、捕まえられる。もう秒読みになっていたが、できる限り読みを深める。


 深める………………

 深める…………

 深める……

 深める

 深め


「まさか」

 俺は血が逆流するような真実にたどり着く。まさか、逆に利用されていたのか。

 俺の攻めは、逃走スピードの加速に利用されていたのか。

 あの難解な局面で、この局面までたどりついていたのか?

 無数に枝分かれする流れの中で、唯一生存できるこのルートを一瞬で……


 これが、全国準優勝の怪物、か。


「気がついたようだな、そうだ歩が一枚足りない」

 辻本さんは楽しそうに笑っていた。まるで、獲物を見つけた肉食動物のように。


 将棋の場合は、相手がどんなに優しそうでも、心の中は肉食獣を飼っている。

 甘く見過ぎていたのか。怪物だとわかっていたのに、どこかに甘えがあったのかもしれない。


 だが、後悔なんかしている暇はない。

 辻本さんの玉はもう前に進み続けている。

 これでは、もう勝てない。


 昔の俺ならここであきらめていただろう。でも、ここから先はもう昔の俺じゃない。


「来いよ、辻本(かいぶつ)

 俺は、自分の玉を前に進める。勝てないなら、俺も負けなければいい。

 相手が入玉なら、こっちもそうすればいい。

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