第三百七十五話 西関高校
「やっぱり西関高校か」
「そうおちこむなよ、文人」
どうやら文人の研究が最も活きにくい準々決勝の相手になってしまったことで落ちこんでいるようだ。
関西最強。
真剣師のDNAを組む最強校。
全国制覇歴代最多。
棋力の暗黒面。
東の教育大付属が正統派の選手を育てることが得意な一方で、西の名門"西関高校"は個性派ぞろいの集団として知られる。
校風は、闊達自在。生徒も奇襲・力戦党ぞろいの腕力将棋だ。
かつては、真剣師御用達の将棋道場が近くにあったせいもあり、その影響もあって"勝利至上主義"。負けそうになってもひたすら粘る。奇襲戦法もばんばん使い相手の研究にはまらない。スタメンは、終盤力重視でほとんどの将棋が逆転勝ち。
将棋ソフトとの勉強によって、アマチュアの弱点であった序盤の知識量も改善された中で、異質ともいえるほどの終盤信奉は、一種の恐怖さえ覚えるレベルだった。
非常に勝負強く、全国大会では教育大付属と毎回、準決勝や決勝で激突し名勝負を繰り広げている。
「大丈夫だよ。ここから先が本物の地獄だから」
「……」
高柳先生がそうやって脅しをかける。
「鬼の住処ね」
部長はそう言って笑った。県では敵なしの部長だが、全国大会の個人戦は最高でベスト8だ。
それだけに、ここから先の地獄をよく知っている。
ここまで勝ち上がっている高校のほとんどに、全国区的にも有名なエースたちがひしめき合っている。
「でも、大丈夫だよ。みんながきみたちのことをなんて呼んでいるか、知ってる?」
「……」
「最強のダークホース」
先生は自信満々にそう言った。
「西関との対戦は、準々決勝最高の好カードらしいから、みんな頑張ってね」
さらにハードルを上げてくる。変に緊張しちゃうだろ。
「とりあえず、革命起こしちゃってね、みんな」
いつもの不真面目な態度が消えて、臨戦態勢に切り替わる口調。思わず気圧されるような全盛期の力が込められていた。
「「「「はい」」」」




