第三百六十一話 二人の決心
「部長たち遅いね」
「うん」
私は葵ちゃんと椅子に座って兄さんたちの帰りを待っていた。文人先輩と先生は一足先に宿に向かっている。早めに、チェックインしてゆっくりするための手続きを済ませるためだ。
「かな恵ちゃんにはちゃんと言っておくね」
「えっ!?」
このタイミングで私に話すこと…… もしかして、葵ちゃんと兄さんは……
「私、この前の合宿の夜」
「うん」
「センパイに告白したんだ」
「……」
血が冷たくなっていくような気がする。地面がゆがんでいく。世界が終わってしまったような気分だ。
「でもね、ダメだったんだよ」
「ホント?」
「うん、ホント」
その話に嬉しい気持ちを持つ自分の浅ましさが恥ずかしかった。なんて、嫌な女だろう。そう思う。
だが気持ちは止まらない。
「私はだめだった。他に好きな人がいるって断られた。それが誰かは聞かなかったけどね」
「うん」
「かな恵ちゃんももっと素直になったほうがいいと思うよ。バカだよね、私。敵に塩を送ってる」
「ありがとう、葵ちゃん」
「どういたしまして」
彼女は絞り出すようにそう言った。
「教えてあげたから、ひとつくらいお願いしてもいいよね?」
葵ちゃんは声を震わせて言う。
「うん、何でも言って……」
私も彼女の誠意にこたえたかった。
「勝とう。勝って勝って勝ちまくろう」
彼女は涙をこらえて力強くそう言った。その姿はとても、とても気高かった。
「うん、勝つよ。私は、私たちは勝ちまくるよ」
私はそう力こめて宣言する。もう、止まることはできない。止まってはいけない。




