第三百五十九話 桂太と葵のバレンタイン(特別編)
※今回は番外編です。本編から約半年後のバレンタインデーです。
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「お疲れ様です。桂太先輩?」
「ああ、葵ちゃん、お疲れ様。かな恵は?」
「少し委員会の仕事で遅くなるみたいです」
「ああ、そっか」
夕方の部室で二人きり。文人も少しだけ遅くなるそうだ。
「そういえば、桂太先輩?今日は何の日でしたっけ?」
「……」
「チョコ、いくつもらいました?」
「……」
「えっ、もらってないんですか?本命からも?」
「……」
「もう、私を選んでおけばよかったのに~」
こういう感じで私は先輩のメンタルを削っていく。先輩は無言でうつむき、たまに「ぐふううう」とか言ってる。まあ、本命チョコはあとからもらえるのは確定しているはず。だから、少しくらい落としてもいいよね。いじわるしてもいいよね。
「先輩、クラスメイトからも義理チョコもらえないんですか」
「うん」
「ははは、ざまぁ」
「葵ちゃん!?」
「冗談ですよ~」
「最近、腹黒化してるよね、絶対」
「桂太先輩のせいですよ。私がこんな風になっちゃったの」
「ちょっと、エッチに言ってごまかそうとしてもダメ」
いつものようにじゃれ合う私たち。この時間が私の中ではとても大事だ。
「まあ、そんなかわいそうな先輩のために、”義理”をはたしてあげますよ」
私は昨日手作りしたトリュフチョコを渡す。
「いいの?葵ちゃん?」
先輩は手を震わして喜んでいる。
「どうぞ、”形式的”な義理チョコです」
「形式的?!」
「深い意味はないですよ、せっかく作ったんだから食べてください」
「手作りか、本当にうれしいよ。ありがとう」
「どう、いたしまして」
(”本命”なんて言ったらもらってくれないでしょ、センパイ?)
私は本心を隠してチョコを食べるセンパイをみつめた。




